企業活動におけるマーケティング活動の目的は何か。多くの場合は、消費者への製品・サービスの普及促進と利益の追求だろう。しかし、社会インフラを担う企業にとっては“安全な社会の追求”というもうひとつの目的を持つ。北海道・東北・関東・信越の各地方で約3,900kmの高速道路を運用し、1日に約290万台の自動車が利用しているNEXCO東日本も、安全な高速道路利用を促進するためのマーケティング活動を推進している。NEXCO東日本の安全啓発マーケティングの取り組みやその難しさについて取材した。
「無くそう 逆走」。このメッセージは、自動車を運転するドライバーなら一度は聞いたことのあるキャッチコピーではないだろうか。高速道路会社が逆走防止プロジェクトで長年使用しているキャッチコピーだ。「高速道路の逆走」は、近年ドライバーの高齢化に合わせて社会問題となっており、2017年には全国で207件と2日に1回という割合のペースで発生。衝突事故などが発生した際に死亡事故に至るケースも、事故全体より約40倍と非常に高い。高速道路で発生した逆走事案の66%が、65歳以上の高齢ドライバーによるものだ。
NEXCO東日本では、2018年の秋からドライバーへの啓発だけでなく、高齢ドライバーの逆走問題を家庭全体で考えてもらおうと、「家族みんなで 無くそう逆走」プロジェクトを開始。逆走問題を高齢ドライバー本人だけでなく“自分の親や祖父母にも起こりえること”と多くの人に自分事化してもらおうというのが狙いで、「家族みんなで逆走を知る」「家族みんなで運転能力をチェックする」「家族みんなで逆走事故から守る」という3つのアクションプランを提案している。自分の親や祖父母が逆走を起こさないように、家族みんなで会話してもらうのが狙いだ。
プロジェクトの開始時には、東京湾アクアラインの海ほたるサービスエリアで、多くの人が集まる休日に、運転に必要な能力を家族でチェックできる方法を参加者がタレントのアニマル浜口一家と一緒に実践する啓発イベントを開催。2019年に入り、1月には高齢者の運転に同乗して運転の様子をチェックする「運転ここに注目リスト」を公開したり、2月末には家族で話し合った末に免許返納を決めたある高齢ドライバーに密着したWebムービー「父と母の卒業旅行 ~The Last Long Drive~」を公開しており、公開から1カ月余りで74万回以上の再生回数を記録している。従来の「無くそう 逆走」の啓発サイトに加えて「家族みんなで 無くそう逆走」プロジェクトの専用啓発サイトも立ち上げ、啓発のためのコンテンツを強化したという。