こうした取り組みについて、東日本高速道路(NEXCO東日本)交通部調査役の栗田敏美男氏は、「“ご家族と逆走防止について考えてください”と広く呼びかけても、実際にドライバーの何をチェックしたらいいのか、どのようなアクションを起こす必要があるのかなど、なかなかわからないというのが現実ではないか。そのような方に、具体的なアクションを起こしてもらえるよう、簡単にできる具体案を数多く出させて頂いた」と語っている。

  • NEXCO東日本 交通部調査役 栗田敏美男氏

逆走問題に取り組むことは、NEXCO東日本にとっては高速道路を利用するドライバーの生命に関わる重大なミッションだ。栗田氏によると、前述したような啓発活動と並行して高速道路インフラへの投資も強化しており、逆走防止を注意喚起する路面標示や道路の進行方向を示す矢印板の設置等を推進。また、高速道路上のドライバーが逆走車両に遭遇した際にどのような行動をとるべきかなどの理解を推進する取り組みなどを継続的に実施しているという。

  • NEXCO東日本が行っている高速道路上の逆走対策

しかし、栗田氏はこうした取り組みについて「“高速道路を運転中のドライバー”への注意喚起や逆走防止のための取り組みにはなっている」と評価した上で、「高齢ドライバーによる逆走行為が多い事実を踏まえ、高齢ドライバー本人のみの問題ではなく、その家族にも課題意識を持ってもらい、より多くの方々に関心を持っていただくことが重要だ」と課題提起している。ドライバーだけでなく、ドライバーの家族にも逆走問題を考えてもらうことが、これからのチャレンジになる。

とはいえ、“高速道路を逆走しない”という多くの人が理解できる当たり前のことを、“実は自分や自分の家族が当事者になるかもしれない”と身近にあるリスクとして捉えてもらうことは、決して簡単なことではない。“安全”は高速道路を利用するドライバーにとって最大の利益だが、安全であることが当たり前だと思ってしまう故に関心を持ってもらえない。そこが、商品やサービスといった利益を訴求する一般的な企業のマーケティング活動とは異なる難しさだ。栗田氏はこの点に関して「多くの人は、まだ逆走を他人事だと思っているのではないか。身近なところでも起こりえることなのだと感じてもらえるよう、今後も高速道路インフラやデジタルメディアを活用して継続的に具体的な施策を展開していきたい。ひとりでも多くの方に特設サイトやWebムービーに触れてもらえるよう取り組んでいければ」と語った。

ニュースでは、連日高齢ドライバーによる交通事故や高速道路の逆走事案の報道が絶えない。そのようなニュースに接して“自分はこんな事故を起こすはずがない”と多くの人が心の中で感じているのではないだろうか。しかし、2日に1度はどこかで逆走事案が発生しているように、交通事故は常にドライバーの身近にあるものであり、高速道路の逆走は自分だけでなく自分の家族が当事者になる場合もある。“自分や家族が逆走事故の当事者になって、悲しい思いをしてほしくない”。こうした思いから、NEXCO東日本の安全啓発マーケティングは、これからも続く。このマーケティング活動におけるKGIは、高速道路における逆走の発生そのものを、ゼロにすることだ。