SC18においてMicrosoftの量子コンピューティンググループ主任研究員のMatthias Troyer氏が、量子コンピュータで計算の将来はどうなるのかというタイトルで招待講演を行った。Troyer先生はスイスの超名門工科大学のETH Zurichの教授で、現在は休暇でMicrosoftに来て研究を行っている。

  • Matthias Troyer氏

    量子コンピュータで計算の将来はどうなるのかというタイトルでSC18で招待講演を行ったMatthias Troyer氏

量子コンピュータの原理

コンピューティングの原理は紀元前2500年のそろばんから20世紀のLSIまで、変わっていない。しかし、21世紀の量子コンピュータは、これらの古典コンピュータとは異なる新しい原理で動作する。

  • 計算の原理

    計算の原理は、紀元前2500年のそろばんから20世紀のディタルLSIまで変わっていない。しかし,21世紀の量子コンピュータの計算原理はまったく異なっている (このレポートのすべての図は、Troyer氏の招待講演での発表スライドを撮影したものである)

第7代ブロイ公爵ルイ=ヴィクトル・ピエール・レーモン(ルイ・ド・ブロイ)が1927年に光も物質も粒子と波の両方の性質を持つことを実験で証明し、1929年にノーベル物理学賞を受賞した。

  • ド・ブロイ

    ルイ・ド・ブロイが1927年に光も物質も粒子と波の両方の性質をもつことを実験で示し、1929年にノーベル賞を受賞した

電子を粒子とみると、左の箱に電子が入っている状態をbit0、右の箱に入っている状態をbit1とすることができる。

  • 電子の状態

    電子を粒子と見ると、左の箱に電子が入っている状態を0、右の箱に入っている状態を1とすることができる

しかし、波の場合は、電子は左と右の箱に同時に入っているという重ね合わせ(Superposition)の状態を取り得る。これがqubitである。

  • 重なり合わせの状態

    電子を波と考えると、1個の電子が右と左の箱に同時に入ることが可能になる。これが0と1が重ねられている状態となる

個々に制御のできるqubitはイオンや超電導のJosephson素子、あるいは電子のスピン状態で作ることができる。

  • 制御できるqubitの作製方法

    個々に制御のできるqubitは、イオン、超電導のJosephson素子、電子のスピンなどで作ることができる

Qubitは、色々な状態の波の振幅の重ね合わせとして表現されるが、qubitを読み出そうとするとランダムなbitが読み出されてしまい目的の計算結果はうまく読み出せない。

  • qubitの読み出し

    Qubitは色々な状態の波の重ね合わせで表現されるが、その値を読み出すと1つのランダムな値になってしまう

そして、n個のqubitの状態を表すためには指数的に多くの複素数を必要とする。しかし、我々はその中の1つの値しか読み出すことができないという問題がある。

  • qubitも1時には1つの値しか読み出せない

    N個のqubitは指数関数的に多くの複素数の値の重なりになっているが、我々は1時には1つの値しか読み出せない

量子コンピュータはどのように使われるのか

量子コンピュータができれば、RSA-2048暗号は4100qubit、BitcoinのECCは2330qubitあれば解読できるようになってしまう。このため、Microsoftは量子デバイスを使う量子的な鍵の伝送方法など、量子コンピューティング時代の暗号についても研究を行っている。

  • Microsoftも量子コンピュータの研究を実施

    数1000qubitの量子コンピュータができればRSA-2048やBitcoinの暗号は破ることができるようになる。このため、Microsoftは量子的な鍵の配送など、量子的に強化された暗号の研究も行っている

量子コンピュータが高速なのはすべての値について同時に計算を行うからであると説明されているが、これは正しくないとTroyer先生は言う。

単純に計算結果のqubitを読み出しても、それは1つのランダムな値が読み出されるだけで、意味のある結果を得るためには、ほとんどの場合に正しい結果が読み出されるように、良いリダクションを行うことが必要であるが、これが難しいという。

  • 正しい答えを得る方法

    計算結果のqubitを読み出しても、ランダムな値が読めるだけ。ほぼ確定的に正しい答えを得るには良いReduction方法を見つけることが重要

原理的には、量子コンピュータは普通のコンピュータが行う古典的な演算も行うことができるが、効率は非常に悪い。このため、量子コンピュータは、特定の仕事を行うためのアクセラレータとして使われることになる。