ダッソー・システムズは10月1日、11月1日に同社の解析ソフトウェアソリューション「SIMULIA」の年次ユーザーイベント「2018 SIMULIA Community Conference Japan(SCCJ)」の開催に先駆け、SIMULIAの現状についての説明会を開催。複雑化するシミュレーションニーズに対応するべく、機能ならびに製品の拡充を図っていることを明らかにした。

さまざまな分野にさまざまなシミュレーションを提供

さまざまな製品の開発において、シミュレーションは昔から活用されてきたが、近年、コンピューティングパワーの向上により、例えば自動車の衝突シミュレーションでは、車体のみならず、内部のエアバッグやダミー人形の動きを含めた形で実行できるようになるなど、従来は性能確認のために、開発の後期に用いられてきたものが、初期段階での問題の洗い出しなどに活用されるようになってきた。

また、さまざまな機器の進歩に伴い、基本的な機能部分は、ある意味、完成の域に達しつつあり、シミュレーションに求められる分野としても、空調に当たった際の人間が受ける快適性、といったものも対象となってきている。

こうしたニーズの変化を受けて、ダッソーでも、SIMULIAに対し、「シミュレーションポートフォリオの拡充」「インダストリープロセスの提供」「シミュレーションの新たな利用法」の3つの価値の提供を目指した取り組みを進めているとする。

  • SIMULIAが提供する3つの価値

    SIMULIAが提供する3つの価値 (出所:ダッソー・システムズ発表資料)

ポートフォリオの拡充としては、ダッソー全体としては、SIMULIAのみならず、ライフおよびマテリアルサイエンスの「BIOVIA」もブランドとして用意しており、分子レベルの挙動解析から、システムとしての動作まで、マルチスケールでの対応を可能としているほか、その適用範囲も、SIMULIAの核となってきた構造解析はもとより熱解析、流体解析といったシミュレーション解析では一般的な 分野から、電磁場、制御、地球物理学、生物学、化学など「マルチフィジックス&サイエンス」の戦略に基づき拡大を続けており、それに併せる形で、製品ポートフォリオの拡充も進めている。

  • SIMULIAポートフォリオ

    SIMULIA製品のポートフォリオ拡充の流れ (出所:ダッソー・システムズ発表資料)

この2~3年だけでも、自動車の電動化を中心に対応が求められるようになっている電界・電磁界解析のポートフォリオとして、2016年にCSTを、2018年にOperaをそれぞれ買収しているほか、流体解析のポートフォリオとして、Next Limit Dynamics(製品名:XFlow)を2016年に、Exa Corporation(製品名:PowerFLOW)を2017年にそれぞれ買収しており、機能の拡充を図ってきた。XFlowにしろ、PowerFLOWにしろ、格子ボルツマン法を活用したシミュレーションに対応した技術を採用しており、エンジン内部でオイルをかきあげる様子といった、これまでなかなか計算が難しかった複雑な物体の移動現象も、処理を実行することが可能となるといった特徴がある。

  • SIMULIAの製品ポートフォリオ

    SIMULIAの製品ポートフォリオ。この2-3年で一気に電界・電磁界および流体解析製品が拡充された (出所:ダッソー・システムズ発表資料)

複雑化するものづくり産業の開発要件

こうしたポートフォリオの拡充の背景には、実際に同社のツールを活用する産業界の顧客が抱えている課題の解決を目指したサービスを提供する、という目的がある。例えば、電気自動車(EV)の開発では、これまでの自動車開発とは異なり、バッテリー関連の性能向上といった課題が、試験走行の理想条件下ではなく、実際の走行条件の下で実現することが突きつけられるほか、エンジンがなくなり、モーターのみとなるため、静粛性が増し、ノードノイズやエアコンの風切り音など、新たなノイズを乗客が気にするようになり、そうした対策も求められるようになる。

また、3Dプリンタの性能向上に伴い、アディティブマニュファクチャリングの活用が期待できるようになってきた。アディティブマニュファクチャリングは、構造の最適化という面に注目が集まるが、それを実際のシーンで用いた場合の駆動や劣化など、「材料特性を考慮した全体を通したプロセスでのシミュレーションフレームワークが構築できる」(同社SIMULIA事業部アジア統括リーダーの石川和仁氏)という、CATIAとの連携なども含めて、トータルでの製品設計が可能となる点にもポートフォリオの拡充はつながっているとする。

さらに、シミュレーションの機能強化が進むのに併せて、出力されるデバイスも単なるモニタだけではなく、仮想現実(VR)などの活用も可能になってきた。これまでモックアップや試作品が出来上がるまで、感じることができなかった風の流れや、座席からの眺め、といった感覚的なものが評価できなかったものが、拡張現実(AR)や複合現実(MR)でも良いが、そうした現実と仮想空間をつなげる技術で、実物がその場に存在しないのに、それを体感できるようになった。「シミュレーション上で演算処理を行なうことで、実際に、そういう構造にしたときの音なども出せるようになってきた。こうした技術を開発現場に適用することで、感性といった面の評価などもいち早く進めることができるようになる」(同)とする。

  • VR活用デモ
  • VR活用デモ
  • VRを活用した車内の空調の体感デモの様子。風の流れのみならず、シミュレーション上で、風の音も再現することが可能。液晶モニタ上の映像が、VR HMD(今回はVIVE PRO)を被った人が見ている風景

このほか、同社としては、こうしたVRやシミュレーションの新たな活用手法としてマルチボディシミュレーションソフト「Simpack」を用いたリアルタイム処理によるクルマの挙動の変化を、実際に体験できるデモも用意している。これについて同氏は「クルマの挙動の変化をドライビングシミュレータでどう変わるのかを体験できるということは、自動車の開発で重要となる。そのためには、バーチャルで得られた経験をいかにリアルで表現するかが重要となるし、その逆もしかり。バーチャルとリアルの両面から融合を進めることで、今後とも、新たなバーチャルのシミュレーションの拡張性にも挑んでいきたい」と説明。今後、シミュレーションの活用の場を拡大するべく、さまざまな方向性での取り組みを進めていくとしていた。

  • Simpackを用いたドライビングシミュレータ
  • Simpackを用いたドライビングシミュレータ
  • Simpackを用いたドライビングシミュレータ。と言っても、ダッソーがハードウェアごと販売するわけではなく、ソフトウェア部分を提供。ハードについては、OEM(自動車)メーカーなどが自ら構築したり、パートナー企業などからの提供となる。この特徴は、ドライビングシミュレータに目が行きがちだが、そのバックエンドでリアルタイムで動作している自動車のシミュレーション。今回は自由度は約200ほどで、タイヤにかかる力であったり、といったことを路面の設定条件に応じて、どのように変化するかを表示。ドライビングシミュレータは、実際に、その条件で走行した場合、どういった走行になるのか、といったことを体験することができるという仕組みとなっている

  • ダッソーが提唱するバーチャル・ツイン

    ダッソーでは、実物の形状、材質、挙動などを、そっくりバーチャル空間上に再現できる3Dのレプリカ「バーチャル・ツイン」という概念を提唱しており、その実現には、ありとあらゆるものを再現可能なシミュレーションが重要な役割を担うこととなる

なお、冒頭でも触れたが、2018年のSCCJは、11月1日に東京・品川の東京コンファレンスセンター・品川にて開催され、その場にて、ユーザーに向けたSIMULIAの近況などの紹介が行なわれる予定となっているという。