ispaceは9月26日、同社が進めている月周回と月着陸の2つの技術実証ミッションの実現に向け、スペースXとの間に打ち上げ契約を締結したこと、ならびにこの月面探査プログラムの名称を「HAKUTO-R」に決定したと発表した。
スペースXのロケットを使って月周回/着陸を目指す
2回の打ち上げをスペースXと契約したことについて、同社ファウンダー&代表取締役の袴田武史氏は、「通常は1回の打ち上げごとの契約だが、ispaceが今後、輸送サービスを展開していくにあたっては、複数回の契約を行なっていくことが重要と考え、2回の打ち上げ契約を同時に結んだ」と説明。また、「信頼性やコストの面もあるが、重要視したのは、継続的に高頻度で打ち上げることができる、安定的な供給力を考慮した」と数あるロケット企業の中からスペースXを選んだ理由を述べた。
用いられるのは、もはや地上へ戻ってくるのは当たり前、というような風潮にもなった感がある「ファルコン9」で、ミッション1と呼ばれる月周回が2020年半ば、ミッション2と呼ばれる月着陸が2021年半ばに、それぞれフロリダのケネディ宇宙センター、もしくはケープカナベラル空軍基地からの打ち上げが計画されている。
HAKUTO-Rという名前に込めた想い
今回のプロジェクト名称であるHAKUTO-Rだが、 月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)に参加した日本のローバー「SORATO」の打ち上げを目指していた民間月面探査チーム「HAKUTO」の存在がその根底にある。袴田氏も「HAKUTOがあったから、今、ここに居ることができると考えている。プロジェクトを支援してくれた皆さんには、感謝を申し上げたい」と述べるように、HAKUTOでの経験が、現在の糧になっていることを強調。そうしたHAKUTOでさまざまな人や企業から受けた支援の想いを受け継ぎたいということで、再起動を意味するReboot(リブート)の頭文字「R」を付け、HAKUTO-Rへと決まったという。
また、HAKUTO-Rのロゴデザインも、HAKUTOでモチーフとした白いウサギと頭文字のHをベースに、一筆書きで描けるということに、地球から月に向かうランダーの軌道を、描きだされる曲線を月面、という意味を持たせたものとなっている。
月面の着陸地は死の湖を想定
打ち上げから、月に至るまでの道程は、まず地球の周回軌道に突入。そこでランダーが展開され、エンジンを点火。月遷移軌道に移行し、月周回軌道に投入。月の日の出のタイミングで月面へ着陸することを計画したものとなっている。
打ち上げから月に到着するまでにかかる日数はいずれのミッションも11日としており、特に着陸を行なうミッション2の着陸候補地が「死の湖(Lacus Mortis)」であることが今回明らかにされた。
死の湖は、縦孔が存在していること、ならびに孔の片側が崩壊しており、天然のスロープが形成されている可能性があることなどから、HAKUTOの月面着陸予定地点でもあった場所で、「ミッションとしてはエキストラだが、初めての縦孔探査に技術的にチャレンジしていきたい」(ispaceディレクター&COOの中村貴裕氏)と意気込みを語る。
さらに、縦孔に挑むためのローバーの構成も明らかにされた。元々HAKUTOが検討していた4輪タイプのローバーと2輪タイプのローバーを組み合わせた「デュアルローバー方式」を復活させる形となっており、2輪ローバーが有線接続で縦孔を降りていくことが想定されている。
初期デザインからシンプルに進化したランダー
加えて、今回の発表では、最新のランダーのモックアップが公開された。従来のコンセプトモデルと比べると、コンポーネントの最適化や、燃料タンク、推進剤タンク2台ずつを内蔵に変更といったことなどで、シンプル化を実現したほか、ローバーを展開可能なパネルに固定するなどの改良も施された。
そのサイズは、着陸用の足が不要なミッション1では、高さ2.1m、幅1.5mで、着陸用の足が含まれるミッション2では、2.4m×1.5m(足を広げた場合、3.5m×4.4m)となっている。
通信については、地球-ランダー間はXバンドを用いた通信を実施。ランダーとローバーの間は、2.4GHzならびに900MHzの無線通信が予定されている
これからのスケジュールはどうなる?
多くの人が気になるのは、そのスケジュールだろう。打ち上げ予定時期が明確化された一方で、すでに8月に日米欧の26名の専門家が参加した場で、ランダーは基本設計審査を通過しており、現在は詳細設計の段階に移行。これも2019年第2四半期(夏前ころ)に完了する見通しで、その後、月に向かうランダーのフライトモデルの製造を進めていくほか、並行して月面探査用ローバーの開発も進めていく予定だという。
また、これらの開発と並行して、ミッションコントロールセンター、いわゆる管制室の構築も進めていく予定で、2019年の後半にはお披露目できる見込みだという。
ミッション2は、ミッション1の結果をフィードバックする形で製造が行なわれる予定で、2019年春に最終設計審査を実施する予定。一方のローバーについては、2020年後半に、地球上で月面環境を模擬したフィールド試験を実施する予定としており、民間ならではの早いスピードで開発を進めていくことを想定しているとする。
なお、ispaceは、今回のHAKUTO-Rの始動に併せて、スポンサーシップやペイロードサービスの開始も発表。スポンサーシップは、企業のロゴをランダーやローバーに掲載したり、月面の映像を企業ブランディングに活用してもらうことを想定したサービスとなっている一方、ペイロードサービスは4K/8Kカメラを月に輸送して、高解像度での撮影を行なったり、企業のオリジナル商品の輸送を行なったり、サイエンス分野に向けて月の環境を解放して実験をしてもらったり、といったことを進めて行きたいとしている。また、このほかにも、HAKUTOで行なっていたような一般の人たちに向けたサポーターズクラブのような会員組織の設立も考えているとのことで、今後、その詳細情報などを順次公開していきたいとのことであった。