九州大学(九大)は、日本産のドジョウ類全35種類について各標本をCTスキャンし、その3Dモデルをオンライン公開したことを発表した。中には既に絶滅したジンダイドジョウやヨドコガタス ジシマドジョウの貴重な標本、また、種を命名する際に登録された模式標本なども含まる。

この成果は、九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター 鹿野雄一准教授らと、福岡県保健環境研究所、山階鳥類研究所、三重県総合博物館、滋賀県立琵琶湖博物館と共同研究によるもので、7月9日付けの国際誌「Biodiversity Data Journal」にオンライン掲載された。

  • (上)絶滅したジンダイドジョウ(三重県総合博物館所蔵)の骨格の3Dモデル、(下)天然記念物アユモドキ(琵琶湖博物館所蔵)のCTスキャンデータ

    (上)絶滅したジンダイドジョウ(三重県総合博物館所蔵)の骨格の3Dモデル、(下)天然記念物アユモドキ(琵琶湖博物館所蔵)のCTスキャンデータ(出所:九大ニュースリリース※PDF)

ドジョウの仲間は食用としてよく知られる「ドジョウ」の他に、未記載種や国外外来種を含め35種類が知られている。これらのドジョウ類は、さまざまな水環境において多様な形態に進化した。このような進化の仕組みを解明する上では、近年普及した遺伝子研究だけではなく、原点に立ち戻って形態からのアプローチも必須である。この研究が、そのドジョウ類の進化の謎を解明する上で役立てられていくことが期待されまる。

一方で、日本の水環境は水棲生物にとって悪化の一途をたどり、ドジョウ類においても例外ではない。このほど公表された「環境省レッドリスト2018」では、かつて身近な魚であったドジョウが準絶滅危惧に選定されたことが話題となった。日本各地で多くのドジョウ類が絶滅に瀕しており、中には既に絶滅した種もいる。生物標本は、たとえ標本庫等に丁寧に保存されていても、年々劣化する。研究グループは、それをデジタル化することで、その標本の形態を半永久的に劣化なく保存するとともに、オンラインで広く公開することには、学術的にも大きな意味があると説明している。

なお、ドジョウ類全35種類の3DモデルやオリジナルのCTスキャンデータは、「Fishes of Mainland Southeast Asia」Webサイトから自由に閲覧できる。

研究者の鹿野雄一准教授は、次のようにコメントしている。「多くの生物標本は、誰の目にも触れることなく博物館に眠っています。生物標本の3Dモデルを誰にでも閲覧できるよう公開することで、その価値や意味が広く一般に浸透するとともに生物多様性への関心が高まることを願っています。ジンダイドジョウやヨドコガタスジシマドジョウは既に絶滅し たとされていますが、デジタル化することにより少なくとも形態だけでも後世に半永久的に引き継ぎたいと考えています。」