京都大学(京大)は7月9日、長期宇宙滞在後の宇宙飛行士に見られる、眼球の後ろが平たくなる「眼球後部の平坦化」および眼球とつながる視神経を取り囲む「視神経鞘の拡大」について、本質的な病因を明らかにしたと発表した。

同成果は、京都大学大学院工学研究科の掛谷一弘 准教授、仏ラリボアジエール病院の篠島亜里 研究員、大阪大学大学院医学研究科の多田智 招聘教員らの研究グループによるもの。詳細はアメリカ医学会発行の学術誌「JAMA Ophthalmology」(オンライン版)に掲載された。

  • 長期飛行を終えた帰還後の宇宙飛行士に、眼球後部平坦化(青矢印)や視神経鞘拡大(赤矢印)が、MRI画像で報告されている

    長期飛行を終えた帰還後の宇宙飛行士に、眼球後部平坦化(青矢印)や視神経鞘拡大(赤矢印)が、MRI画像で報告されている (出所:京都大学Webサイト)

宇宙空間では重力が地表の100分の1以下であるために、宇宙飛行士の身体にさまざまな変化が現れる。また地表で使用する足腰の筋力が衰えるのみならず、あまり影響がないと思われる大脳や視神経など体の内部にも異常がでることが分かってきた。

2011年に眼球後部平坦化や視神経鞘径拡大などの宇宙飛行士の眼に関する所見が公表されて以来、世界中の研究者たちがその起源の解明を試みてきた。さらに2017年には宇宙飛行が長期滞在になればなるほど、脳が上に移動したまま、帰還後も元には戻らないことがあるということが報告されている。

しかし、宇宙飛行士はさまざまな医学的検査を宇宙飛行前・飛行中・飛行後に行っているために、宇宙飛行中・飛行後の眼球後部平坦化や視神経鞘拡大の発症について、何がどのように影響しているかということは明らかとなっていなかった。

地上における視神経鞘の拡大は、頭蓋骨内部の髄液の圧力が上昇していることを示唆する。臨床の現場では、どれくらい髄液圧が上がっているかについて、腰の安全な部位に太い針を刺して髄液の圧を測定することが出来るのだが、これを重力がほとんど無い国際宇宙ステーション(ISS)内で行うことは現実的ではない。その一方で視神経鞘の形状は、身体を傷つけない超音波検査によって観察可能であり、ISS内でも行われている。

研究グループは今回、それらの眼球後部の平坦化および視神経鞘の拡大について、文献に発表されている宇宙飛行士などのデータを用いて解剖学的・材料力学的に検討した。

結果、それらの身体の変化は本質的な要因は、髄液の圧力が上がっていることでは無く、”宇宙飛行中の大脳の上方移動”にあるということが明らかになった。

今回の成果を受けて研究グループは、眼球後部を含めた眼を観察することで、脳の動きが推定できるのではないかということを提案。今後、このように宇宙飛行によって生じうる眼病の発症原因を明らかにすることで、一般人も宇宙に行く近未来に、人類が直面する宇宙特有の病気への対応策の立案に貢献できるとのではないか、としている。