天文学者の国際研究チームは、超大質量ブラックホールに近づきすぎた恒星が強い重力によってバラバラに引き裂かれる「潮汐破壊現象」を直接観測することに成功したと発表した。研究論文は科学誌「Science」に掲載された

  • 超大質量ブラックホールによる恒星の潮汐破壊現象

    衝突中の銀河のペアArp299(左下)の中心部で起きている超大質量ブラックホールによる恒星の潮汐破壊現象とそれに伴うジェット噴流の想像図 (出所:マンチェスター大学)

今回報告された潮汐破壊現象は、地球から約1億5000万光年先で衝突している2つの銀河のペア「Arp299」で起こったもの。Arp299のうちの一方の銀河の中心に存在すると考えられている超大質量ブラックホール(太陽の2000万倍超の質量)によって、ひとつの恒星(太陽の2倍以上の質量)が引き裂かれる様子を、世界各地の電波望遠鏡、赤外線望遠鏡を使って詳細に観測したとしている。

ブラックホール理論によれば、超大質量ブラックホールに近づいた恒星はブラックホールの重力によってその構成物質を引っ張りだされる。引っ張りだされた物質はブラックホールの周囲で回転する円盤を形成し、強いX線および可視光を放射するとされる。また回転極から外部に向かって光速に近い速度でジェット噴射される物質もあると考えられている。

ブラックホール周囲の回転円盤から噴射されるジェットの形成と成長過程を直接観測したのは今回が初めてのことであるという。報告された現象が最初に観測されたのは2005年のことで、それが超大質量ブラックホールによるものであると特定するまでに10年以上の月日がかかっている。

2005年1月30日、カナリア諸島にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡が、Arp299の一方の銀河中心部から放射される強い赤外線を最初に観測。同年7月17日には、米国のパラボラアンテナ群・超長基線アレイ(VLBA:Very Long Baseline Array)が同じ場所からの電波放射を観測した。

Arp299では恒星の爆発が多数起きており、「超新星工場」とも呼ばれている。2005年に観測された事象も、当初は超新星爆発によるものであると考えられた。

その後も、カナリア諸島の北欧光学望遠鏡、NASAのスピッツァー宇宙望遠鏡、欧州超長基線ネットワーク(EVN:European Very Long Baseline Network)、VLBA、その他世界各地の電波望遠鏡による観測が続けられた。多数の望遠鏡を用いることによって、観測データの解像度を上げることが可能になる。

2011年になって、電波放射が伸長していることがわかり、観測された事象が超新星爆発ではなくジェット噴流であることが確認された。研究チームは今回の論文で、ジェット噴流の伸長と減速の様子から、それが超大質量ブラックホールによるものであると結論した。