高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東京大学(東大)、ATLAS日本グループは、欧州合同原子核研究機関(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で行った実験成果として、極めて稀な素粒子の反応であるトップクォーク対とヒッグス粒子が同時に生成される事象を初観測したことを発表した。
LHCは、ほぼ光速まで加速した陽子同士を衝突させる、世界最高エネルギーの円形加速器。2009年に運転を開始し、2010年3月から7TeV(テラ電子ボルト)の衝突エネルギーで本格的な実験をスタートした。2012年4月には、衝突エネルギーを8TeVに増強し、同年7月4日のヒッグス粒子発見につながった。現在は衝突エネルギー13TeV でデータを蓄積し、素粒子とヒッグス粒子との相互作用を精密測定することによる質量起源の解明や、新物理現象を示唆する新粒子の探索を行っている。
この研究において、2017年までに収集したデータ中にヒッグス粒子が、トップクォーク対と同時に生成されるという極めて稀にしか起きない反応を発見した。ヒッグス粒子は陽子同士の衝突により生成された直後に様々な粒子対に崩壊するが、それらを分類・解析し、まとめたところ、6.3σの統計的精度で間違いがないことがわかった。現在の測定精度では、反応が起こる確率はヒッグス機構の予想と一致しており、トップクォークの質量がヒッグス 場の動的な性質によって生成されていること(=ヒッグス機構)を示唆している。
2012年のヒッグス粒子発見により、宇宙は無ではなくヒッグス場で満ちており、素粒子の質量はヒッグス場の動的な性質で生成されている(=ヒッグス機構)ことを突き止めた。同時に、力を媒介する粒子であるW粒子やZ粒子の質量が、ヒッグス機構により生成されていることを検証した。それ以降、物質を構成する粒子の質量もヒッグス機構によるものなのかどうかが素粒子物理学上の重要な課題となっていた。
物質を構成する素粒子には3つの世代があり、トップクォークは第3世代の素粒子だが、同じ世代に属するボトムクォークとタウ粒子については、その質量がヒッグス機 構により生成されていることが過去の実験結果から示唆されていた。今回の結果を踏 まえると、検証困難なタウニュートリノ以外の第3世代の物質粒子について、質量が生成される仕組みがヒッグス機構であることを突き止めたと言える。素粒子の質量の起源の全貌解明に向けて大きく前進した。
素粒子物理学の世界では、物質を構成する粒子になぜ極めて大きな質量差があるの か、また何が世代の違いを生んでいるのかという大きな謎がある。研究グループは今後、トップクォークとヒッグス粒子の相互作用を詳しく調べる一方、第2世代の物質 粒子にも調査の対象を広げ、素粒子物理学の謎の一つである「世代の謎」(なぜ3世代あるのか) にも迫る方針だとしている。