東京農工大学は、ツキノワグマ(以下、クマ)が樹上でブナ科堅果(以下、ドングリ)を食べる行動は、個々の木の結実量や地域の森林全体の結実の豊凶によって影響を受けることを明らかにしたと発表した。この結果から、クマの採食生態に関する新たな知見が得られたという。
同研究は、東京農工大学自然環境保全学部門の小池伸介准教授と、森林研究・整備機構森林総合研究所企画部研究企画科の正木隆科長らの共同研究チームによるもので、同研究成果は、6月3日付でイギリスの動物学誌「Journal of Zoology」オンライン版に掲載された。
クマが樹上で枝先の果実や葉などを食べる際、果実が結実した枝を手元にたぐり寄せて、枝先の果実を採食するが、その際に折れた枝が樹上で積み重なった「クマ棚」とよばれる採食痕跡を残す。しかし、樹上での採食行動に関しては不明な部分が多く残されているという。そこで同研究チームは、どのような結実状況の時に、クマは木に登ってドングリを採食するのかを明らかにすることを目的に、ドングリが実る3樹種(ミズナラ、コナラ、クリ)を対象に、クマ棚の形成と結実量の関係を調べた。
調査は2008年〜2014年、栃木県・群馬県にまたがる足尾・日光山地において行われた。3樹種計371-481本の調査木の毎年の結実量と、各年の3樹種をすべて合わせた地域全体の結実状況、そして各調査木へのクマ棚の形成の有無が調べられた。すると、結実量の多い木ではクマ棚が形成されやすいこと、そして特に地域の森林が全体的に凶作の年にはクマ棚が形成されやすくなることがわかった。興味深いことに、凶作年には、豊作年には無視されるような結実量の少ない木にもクマ棚が形成されることがわかたっという。なお、3種の中の特定の樹種への選り好みは認められなかった。
これらのことから、クマは効率よく食物資源を得るために登る木を厳選し、一度に短時間で大量のドングリを食べようとしていること、特に凶作年には、より多くの木に登ってできるだけ多くのドングリを食べようとしていることが考えられるという。また、地域の森林全体の結実状況に応じてもこういった採食行動を変化させ、採食効率を高めていると考えられるということだ。