2018年5月、AOSリーガルテックは、新たなVDRシステムであるAOSデータルームを発表した。2017年10月以来、テストマーケティングを続けてきたが、ユーザーからのニーズを反映し、新バージョンとして、今回の発表会が開催された。本稿では、その様子やVDRについて紹介したい。

日本の環境に最適化

発表会場はGINZA SIX。最初に登壇したのは、AOSグループ代表の佐々木隆仁氏である。

  • 図1 AOSグループ代表 佐々木隆仁氏

佐々木氏は、日本の商習慣や企業文化として、マル秘データをいかに社内のみならず、社外と共有していくかが重要な課題となっていると指摘。そして、デジタル化が進み、そのようなマル秘データを扱うソフトがVDR(バーチャルデータルーム)であると語った。そこで、AOSデータルームの開発では、企業の法務活動で機密データを扱った経験のあるAOSリーガルテックの顧問弁護士のアドバイスを受けて開発してきたとのことだ。さらに、この市場でNo.1を獲得できるという確信を表明した。その後、AOSデータルームの適用される業界や業種などを紹介した。

VDRとは、AOSデータルームの特徴

次いで、登壇したのは、AOSリーガルテックVDRカンパニー長の金丸尚樹氏である。

  • 図2 AOSリーガルテックVDRカンパニー長 金丸尚樹氏

AOSリーガルテック社の紹介などの後、VDRの説明を行った。その最初の言葉が「VDRってご存知ですか?」であった。この言葉にあるように、M&Aに関わったり、VDRを使った人はそれほど多くはないだろう。まずは、VDRの解説から始まった。

前提として、「V」のないデータルームであるが、M&Aにおいて、売り手側が財務資料、顧客情報、営業情報などを買い手に開示する。当然、高度な機密情報なので、厳重に保護された一室などに集められ、適切な監視下で情報共有される(この一連の作業をデューデリジェンスと呼ぶ)。この部屋のことをデータルームと呼んでいた。そして、紙ベースのデータルームから電子化され、VDRへと発展したのである。VDRの歴史は古く、2000年前後から、米国などではリリース、利用が開始されてきた。

しかし、その後、あまり普及や改善は進まなかった。その理由であるが、実際のM&Aのプロセスを表したものが図3である。

  • 図3 M&Aのプロセス

M&Aの多くは、売り手と買い手を仲介するFA(ファイナンシャルアドバイザー)によって進められる。ここで、VDRを準備するのはFAの役目で、費用もFAが負担する。実際に使用する売り手や買い手は、VDRの使い勝手の不満やほしい機能があったとしても、無料で使っているため、要望しにくい環境となる。VDRベンダーにしても、ユーザーのニーズを取り込むことができず、改善が進みにくい。そんな状況で、VDR自体が、あまり使い勝手のよいツールとして普及してこなかった(他にも対応ブラウザが限定されていたり、日本語化などは低いレベルであった)。

金丸氏は、AOSデータルームの開発において、注力した要素の1つに「使いやすさ」をあげていた。また、AOSリーガルテックは、これまでにフォレンジックやeディスカバリーといった企業にとって機密性の高いデータを扱ってきたことも、AOSデータルームを開発していくうえで役に立っていると説明していた。旧来のVDRの使い勝手の悪さから、クラウドストレージなどに頼ってしまいがちであるが、所詮、コンシューマ向けであり、企業のニーズに対応できるものではない。その点、AOSデータルームは、M&A以外にもさまざまな企業のデータ共有に対し、対応できるだろうと語っていた。図4は、AOSデータルームの特徴をまとめたものである。

  • 図4 AOSデータルームの特徴

金丸氏は、AOSデータルームを「新世代VDR」と呼んでいた。その理由の1つは、その適用範囲がM&Aに限らないことである。実例で説明したほうがわかりやすいだろう。ゲームなどのコンテンツ企業を想定してほしい。コンテンツの扱い方を想定すると以下のようになる。

  • グラフィッカー:自宅(外部)から、CGなどのコンテンツをアップロード
  • 社内の制作部:アップされたコンテンツをネイティブ形式でダウンロード
  • 営業部・広告部:アップされたコンテンツを閲覧可能
  • 総務部など:データ自体の存在が見えない

こういったことを、AOSデータルームを介して行うことができる。同様に、社外取締役とのデータ共有、図面や設計データの共有、安全なテレワーク環境の実現といった利用も考えられる。

AOSデータルームのデモ

最後に、AOSリーガルテックテクニカルディレクターの戸叶徹氏によって、AOSデータルームのデモが行われた。

  • 図5 AOSリーガルテックテクニカルディレクター 戸叶徹氏

代表的な機能のいくつかを紹介したい。まずは、メイン画面である。

  • 図6 AOSデータルームのメイン画面

基本、3ペインで構成され、Windowsのエクスプローラーやメールソフトに似たUIといってもいいだろう。左にフォルダー一覧、中央にファイル一覧、左に内容表示である。一般的なオフィスデータならば、ほとんどに対応する。

  • 図7 Excelデータを表示

AOSデータルームへのアップロードであるが、エクスプローラーからドラッグ&ドロップで簡単に行うことができる。

  • 図8 ドラッグ&ドロップでアップロード

その後、確認画面となる。

  • 図9 確認画面

[アーカイブの展開]は、zipファイルなどを解凍することもできる。チェックをしなければ、zip形式のままアップロードされる。

また、データのアップロードをリクエストすることも、VDRとしての重要な機能である。AOSデータルームから、リクエストメールを送信すると、リクエストされた側には、図10のようなメールが届く。

  • 図10 データリクエスト

やや見にくいが、下の青い部分のリンクをクリックするとWeb画面に遷移するので、リクエストされたデータをドラッグ&ドロップするだけでよい。データリクエストのアップロードは、AOSデータルームのメンバーでなくても可能である。このような、柔軟な運用もAOSデータルームでは可能である。さらに、AOSデータルームでは、さまざまなデータ共有が可能である。具体的には、以下である。

  • データの存在すら表示しない
  • データの閲覧のみ可能
  • データの閲覧のみ可能(すかし付き)
  • データをPDFでダウンロード可能
  • データをPDFでダウンロード可能(すかし付き)
  • データをネイティブ形式でダウンロード可能

コンテンツ制作会社の例をあげたが、さらにダウンロードの方法を組み合わせることで、データの流出を防ぐことができる。ここでは、すかし機能を紹介しよう。まずは、閲覧時のすかしである。

  • 図11 閲覧時のすかし

さらに、PDFでダウンロードした場合のすかしである。

  • 図12 PDFでのすかし

ここでは、いずれも「!!!社外秘!!!」とメールアドレス(戸叶氏の利用ID)が表示されている。これらの文字列は、任意に設定可能である。メールアドレスをすかしに付けることで、情報流出などが発生した場合でも、流出元の特定をすみやかに行うことができる。また、メールアドレスを入れることで、情報流出自体を抑止する効果も期待できる。

AOSデータルームのロードマップ

ここで、今後のAOSデータルームの将来、搭載される予定の機能を紹介しよう。

  • 図13 AOSデータルームのロードマップ

今後も、多くの新機能が追加される予定である。次期バージョンで搭載されるダッシュボードは、各種統計データをビジュアルに表示する。

  • 図14 ダッシュボード

AOSリーガルテックでは、無料体験も行っている。興味を持たれたのであれば、利用してほしい。

活用事例などもあるので、参考にしてほしい。