京都大学は、量子ビットの誤り率を小さくすることに成功し、現在の技術レベルにおいても、光を用いた量子コンピュータを実現できる方法を開発したと発表した。
同成果は、北海道大学(北大) 大学院情報科学研究科の富田章久 教授、同 博士後期課程の福井浩介氏、京都大学 大学院理学研究科の藤井啓祐 特定准教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国科学誌 「Physical Review X」に掲載された。
量子コンピュータの基本単位である量子ビットとしては、超伝導の磁束、電子のスピンなどさまざまな候補がある。研究グループはこれまで、大規模な量子計算の実現に有利であるとされる光に注目してきた。しかし、光を用いた量子計算の実現には、370兆回の演算あたり1回以下の誤りしか許されず、達成が非常に困難だった。
同グループはこれまで、光の性質を活用することで量子ビットに発生する誤りを訂正する能力を最大限引き出す「アナログ量子誤り訂正法」を開発しており、今回は、ノイズに高い耐性を持ち、実装面でも非常に有利なトポロジカル量子計算という方式にアナログ量子誤り訂正法を適用した。さらに、光波の連続的な性質を活用して量子ビットに誤りが発生した確率を予測する方法を開発した。
まず、予測された誤り発生確率を参照することによって、量子もつれ状態の大規模化過程で、誤りを起こした可能性の高い量子ビットを取り除く手法を提案。また、この誤り確率の高い量子ビットを取り除く手法を、トポロジカル量子計算を実行するために用いられる量子もつれ状態の生成に応用し、誤りに強い大規模な量子もつれ状態を構築できることを理論的に確認した。
さらに、アナログ量子誤り訂正法をトポロジカル量子計算に適用した結果、振幅の精度(分散)が通常のノイズの1/10 以下であれば量子コンピュータが実現できるということが理論的に明らかになった。
これによって、約1万回の演算あたり1回以下の誤りまで許容できるようになり、これまでの方式と比べて約100億倍誤りに強い方式を開発することに成功した。従来、アナログ量子誤り訂正法のトポロジカル量子計算への適用可否は明らかではなかったが、トポロジカル量子計算の誤り訂正能力を最大限引き出すことが示され、アナログ量子誤り訂正法の有効性が証明された。
今回の発表に際して研究グループは、今回開発した方式に求められる許容誤り率は現在の技術レベルでも到達可能なことから、光を用いた量子コンピュータの実現に大きく近づくことができたと説明しているほか、光を用いた量子コンピュータの現実的な構成法を明らかにしたことで、この分野の発展をさらに加速させることが期待されるなどとしている。