東京農工大学は、工業生産もされていながら、これまで反応機構がほとんど未解明であった芳香族ポリイミド原料の合成反応機構をシンクロトロン放射光などを用いて解明することに成功したと発表した。この成果により、芳香族ポリイミドをより効率的に合成する触媒の開発が期待されるという。

  • 推定中間体の合成と放射光による分析により、ポリイミド原料であるフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応の機構が解明された(出所:東京農工大学ニュースリリース)

    推定中間体の合成と放射光による分析により、ポリイミド原料であるフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応の機構が解明された(出所:東京農工大学ニュースリリース)

同研究は、東京農工大学大学院工学府応用化学専攻の佐野浩介博士前期課程修了生、金沢優輝博士前期課程1年、同工学研究院応用化学部門の平野雅文教授および小峰伸之助教、大阪大学大学院基礎工学研究科物質創成専攻の満留敬人准教授および前野禅助教(現、北海道大学触媒科学研究所特任講師)ならびに京都大学化学研究所附属元素科学国際研究センターの高谷光准教授らのグループによるもので、同研究成果は、5月15日にアメリカ化学会の触媒化学専門誌「ACS Catalysis」にJust Acceptedでオンライン掲載された。

芳香族ポリイミドは、高分子の中で最高レベルの耐熱性、耐薬品性と機械的強度を持ち、電子部品の絶縁材料や宇宙航空用材料として使用されている。中でもポリフタルイミドは広く用いられており、その原料の合成にはフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応と呼ばれる触媒反応が工業的にも用いられている。この触媒反応では、酢酸パラジウム(II)と酢酸銅(II)を触媒とし、酸素が酸化剤として用いられるが、その反応機構はこれまで未解明な部分が多く、収率は10%程度に留まっていた。

同研究では、触媒反応で推定される中間体をそれぞれ合成・単離し、単離した推定中間体のフタル酸ジメチルの脱水素アレーンカップリング反応に対する触媒活性が調べられた。特に推定中間体のひとつである(アセタト)(3,4-ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)錯体を触媒に用いると、酢酸パラジウム(II)より高い触媒活性を示したという。さらに、大型放射光施設「SPring-8」のシンクロトロン放射光を用いて触媒反応中の溶液を分析したところ、反応中の触媒は、酢酸パラジウムを触媒とした時にも反応中に推定中間体と同じ電子状態かつ同じ構造となることを発見し、そのスペクトルが、推定中間体の構造から計算されるスペクトルと良い一致を示すことが確認された。これらの事実より、(アセタト)(ジメチルフタリル)(フェナントロリン)パラジウム(II)錯体が触媒反応中間体もしくは休止状態として実際の触媒反応に含まれていると推定された。

同研究成果により、より活性の高い触媒開発の指針が得られたことで、今後は電子材料用絶縁体や宇宙航空用材料にも用いられている芳香族ポリイミドの原料が収率良く合成され、より安価な製造が可能となることが期待されるということだ。