ソユーズ5

ソユーズ5は、名前こそソユーズだが、いままでのソユーズとはまったく異なる形状をしている。特徴的だった末広がりの形状も、十字に並ぶエンジンもない。むしろ、ウクライナ製のゼニートをロシアの技術で再現した「ロシア版ゼニート」といったほうが近い。

  • ソユーズ5ロケットの想像図

    ソユーズ5ロケットの想像図 (C) RKK Energiya

たとえば第1段には、ゼニートで使われていたRD-171の改良型である「RD-171MV」を使う。ロケットの直系や全長も、ゼニートより少し大きくなってはいるものの、それほど大きな違いはない。

あえていちばん大きな違いを挙げるとすれば、第2段エンジンだろう。ゼニートのはウクライナ製だったため、ソユーズ5では新たに、ロシア製の「RD-0124M」というエンジンを装備する。ちなみにその原型のRD-0124は、現在のソユーズ2でも使われているため、言い換えればソユーズ5の中で、唯一"ソユーズらしい"部分かもしれない。

打ち上げ能力はゼニートよりやや大きく、地球低軌道に約18トンを運べる(ゼニートは約14トン)。またゼニートと同じく、必要に応じて第3段を追加することもでき、静止衛星の打ち上げにも対応できる。ちなみに現在のロシアの大型ロケット「プロトンM」や、その後継機となるアンガラーの大型機版「アンガラーA5」と比べるとやや能力は小さいため、そこはうまく住み分けるつもりなのだろう。

  • RD-171Mエンジン

    ソユーズ5の第1段エンジンRD-171MVの原型となるRD-171Mエンジン (C) NPO Energomash

打ち上げ場所は、ロシア極東部のボストチヌイ宇宙基地ではなく、従来からあるバイコヌール宇宙基地を使う。バイコヌールにはゼニートの発射施設が残っており、またロケットとは違い発射施設はロシア製だったため、それを改修して流用することになるとされる。そのためカザフスタンとの共同事業も立ち上げられている。ソユーズのもうひとつの特徴だった、チューリップのような発射台ではなくなるのもちょっと残念なところである。

そしてソユーズという名前を継ぐからには、もちろん有人宇宙船の打ち上げも可能としている。現在ロシアでは、ソユーズ宇宙船の後継機となる「フィディラーツィヤ」(Federatsiya)宇宙船の開発が進んでおり、ソユーズ5がその打ち上げロケットになることが計画されている。

2018年4月時点で、ソユーズ5は設計が完了した状態にある。開発はRKKエネールギヤが担当し、製造は現在のソユーズ・ロケットと同じくRKTsプログレスが担当することになる。

今後、開発が順調に進めば、2022年にも初打ち上げが行われ、2024年から本格的な運用が始まる予定となっている。旧ソユーズ・ロケットは徐々に退役し、ソユーズ5へ移行することになろうが、いまの時点では新旧の交代時期などは明らかになっていない。

  • ロシアの次世代宇宙船「フィディラーツィヤ」の想像図

    ロシアの次世代宇宙船「フィディラーツィヤ」の想像図。ソユーズ5がその打ち上げを担う予定 (C) Roskosmos

ソユーズ5の長所と短所

ソユーズ5が完成すれば、少なくともソユーズやゼニートの後継機として、衛星や有人宇宙船の打ち上げ手段を確保するという問題は解決することができる。また、RKKエネールギヤとRKTsプログレスにとっては、他社製のアンガラーの対抗馬として、またロシア全体にとっては異なる技術のロケットを複数もつという点からも意味がある。

アンガラーと比べると、ロケットそのものが大きく、エンジンも強力なので、わざわざ機体を合体させずとも、そのまま大型の衛星や宇宙船の打ち上げができるという利点がある。モジュール化によるコストダウンは期待できないが、当のアンガラーがモジュール化を実現するために苦労している現状では、大きな問題にはならないかもしれない。

また、アンガラーは3基束ねてようやく中型ロケットほどの性能しか発揮できないが、もしソユーズ5を3基束ねれば、それだけで超大型ロケットにでき、巨大な衛星や探査機の打ち上げや、有人月探査なども実現できるという利点もある。

だが、もちろん課題もある。ひとつは、価格競争力の問題である。

ソユーズ5は、米国のファルコン9のような機体の再使用を考えていない。もともとロシアのロケットは、物価の違いなどもあって、使い捨てのままでも比較的安価ではある。しかし、米国のファルコン9などが再使用によって、いまよりさらなる低コスト化を実現すれば、追いつけなくなるかもしれない。これはアンガラーも同様で、仮にモジュール化が軌道に乗ったとしても、再使用ロケットとどれだけ対峙できるかはわからない。

そのため、ソユーズ5もアンガラーも、まず実運用に入ることは当然ながら、並行して再使用化などの開発を進めるなど、継続した改良が続けられるかが重要になろう。公式には不明だが、ロシアのイズベスチヤ紙などは、RKKエネールギヤが再使用ロケットの検討を始めたと報じている。

  • スペースXのファルコン9

    スペースXの「ファルコン9」ロケットは、機体の再使用によって低コスト化を図っている。ソユーズ5は価格競争力で負けるかもしれない (C) SpaceX

ロシアのロケット産業を取り巻く問題は解決されるか

そして最大の課題は、そもそも無事に完成し、運用に入れるかということである。

ロシアのロケットや衛星などは近年、トラブルが相次いでおり、それは現行のソユーズ・ロケットも例外ではない。業界全体で改善に向けた努力は行われているものの、まだその成果は見えていない。

先日、4期目となるプーチン政権が始動した際、これまで宇宙政策などを担当していたロゴージン副首相が再任されなかった。その理由には、宇宙開発で失敗やトラブルが続き、改善もできなかった責任を取らされたためという見方もある。

なお、ロシアの宇宙開発に詳しいAnatoly Zak氏によると、ソユーズ5では予備設計段階から、ロシア軍が採用している品質基準が適用されているという。これはロシアのロケット開発では初めてとなる異例のことで、ここ数年のトラブルの根本的な原因とされる、品質管理の問題を解決するための処置と考えられている。これが功を奏するかはわからないが、少なくとも改善に向けた方策は取られているようである。

はたしてソユーズ5は、そのコードネームである不死鳥のように、斜陽のロシアの宇宙産業から羽ばたくことができるのだろうか。

参考

https://www.roscosmos.ru/24908/
https://energia.ru/ru/news/news-2018/news_04-10.html
Russia charts new path to super rocket
http://engine.space/press/pressnews/2138/
http://tass.ru/kosmos/5113187

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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