デザイナーの佐々木未来也です。以前、マイナビニュースでこんな記事を書いていました。

フォントから考える 第1回 創英角ポップ体はなぜ街に溢れるのか?
デザイナーはなぜMS Pゴシックを使わないのか? - エディトリアルデザイナーに聞いてみた

少し前の話になってしまうのですが、3月9日~17日(日本時間では3月10日~18日)に開催されたイベント「SXSW 2018」に参加してきました。

  • 「SXSW 18」のメイン会場となるAustin Convention Center

    「SXSW 18」のメイン会場となるAustin Convention Center

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)はアメリカ・テキサス州オースティン、州都オースティンの街全体を会場とする世界有数のイベントです。毎年、「Interactive」「Music」「Movie」の3つの領域にまたがり、大規模なカンファレンスとフェスティバルが開催されています。

今回、私は「Interactive」に関わるカンファレンスを聴講しました。そこではデザイン、テクノロジー、ブランディング、働き方、多様性……、さまざまな話題が真剣に語られ、コンセプトとして提示されていました。

私が「SXSW 2018」で見聞きしたセッション・講演は、仕事柄、デザイン、テクノロジー、マーケティングやビジネスブランディングといったものに集中していましたが、そこでは、「AI (人工知能)」「多様性」「目的」といったキーワードが多く扱われており、米国、ひいては世界的な関心事として注目を集めていました。

ここでは、心に残った講演「AI: Ready to Disrupt Experience Design?」を簡単に紹介しつつ、AIとデザインのこれからについて自身の考えを述べたいと思います。

エクスペリエンス・デザインにおけるAI活用

講演「AI: Ready to Disrupt Experience Design?」では、自動車に関するデザインにおいてAIを活用してプロジェクトを進めた事例を紹介しながら、エクスペリエンス・デザイナーとAIが協働することが可能か、それはいかにして可能かについて考察をすすめていました。

  • 「AI: Ready to Disrupt Experience Design?」のスピーカー、Yann Caloghiris

    「AI: Ready to Disrupt Experience Design?」のスピーカー、Yann Caloghiris。米国のクリエイティブ企業Imaginationにクリエイティブ・ディレクターとして勤務している。

その中でも興味深いものとして、ユーザーテスト中に収集されたデータを、人間の手ではなくAIによって分析するケースが紹介されました。

デザイナーはしばしばプロジェクトにおいてユーザーテストを行いますが、得られたデータを活用可能な情報として整理する作業は、時間と労力を必要とします。例えば5時間分の動画(音声)データから、ユーザーが難しいと感じた行動や楽しんでいる様子を抽出し、テストにおける感情の動きと、それをもたらした行動の内容を紐付け、見やすい形に整形する作業――いわば“生”のデータを意味のある情報へと編み直す作業は、経験者でも数日は必要とします。

しかしこの事例では、テストのデータをAIに処理させることで2時間半弱という驚異的なスピードで、ユーザーの感情をグラフに落とし込んでいました。おそらく人間の9~10倍は早いでしょう。また、コストで換算しても人間の5分の1程度で作業をこなしており、そのパフォーマンスには驚愕しました。

とはいえ、AIを利用する弊害もあるそうです。AIの処理は人間のものと比べて精度が悪く、例えば人間の認識からいえば苦笑い、無表情といった表情を、笑顔として処理してしまうといった問題が発生していました。また、AIは文脈の理解が困難なため、その行動がなにを目的にしているのかを推察するまでには至りません。

慣れたデザイナー・リサーチャーであればこのような問題が起きることは少なく、有用な情報が抽出できるでしょうが、その分時間とコストはかかってしまいます。

「拙速」のAIと「巧遅」の人間。ここから導き出されることは単純です。前処理をAIにやらせて、その作業結果を人間が見直し、修正するという2段階のプロセスを踏み、両者の良いところを発揮してもらえば良いのです。時間とコストを圧縮しつつ、精度を担保する。デザイナーはそれで空いた時間を活用して、よりよい仮説や、改善案の検討をおこなえば、サービスの体験はもっと向上することでしょう。