東京大学(東大)は4月24日、量子力学的に状態が特定された状態(量子純粋状態)が平衡状態として落ち着いているとき、量子もつれの分布が、熱力学によって完全に決定されることを明らかにしたと発表した。同成果は今後、冷却原子形やイオントラップ系における量子情報量の測定実験の解析に役立つことが期待されるという。

同成果は、東大物性研究所、東大国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構の研究グループによるもの。詳細は、「Nature Communications」オンライン版に掲載された。

量子力学と熱力学との理論的な対応関係は、20世紀初頭から研究されてきた。特に近年においては、熱源と完全に切り離された量子純粋状態を用いた熱力学の構築は、理論的な興味はもちろんのこと、冷却原子を使った実験との対応からも、重要な課題となっている。

このような、ミクロな世界(量子力学)とマクロな世界(熱力学)の対応の研究に重要になるのが、量子もつれだ。量子もつれとは、空間的に離れた2つの量子状態が互いに影響し合う現象のこと。

量子純粋状態が平衡状態へと落ち着く過程をコップの水で例えると、水分子同士の衝突により量子もつれが次々と作られ、この量子もつれによって状態は平衡状態へと変化していく、というように表現できる。しかし、平衡状態の中では大量の量子もつれが複雑に絡み合っているため、一体どの程度の量の量子もつれが生じているのかを判断することは出来なかった。

そうした状況を受けて研究グループは、熱平衡状態を表すような量子純粋状態における量子もつれの空間分布を研究。量子純粋状態にある系を空間的に2つに分けた時に、その領域間に存在する量子もつれの量がどのような性質を持つかを調査した。

  • 量子もつれの空間分布のグラフ

    量子もつれの空間分布のグラフ。物質をAとBの2つに分けた時に、AとBの間にどのくらいの量子もつれが生じているかを縦軸に、物質A の長さを横軸にプロットしてある (出所:東大Webサイト)

研究グループはまず、熱力学系との厳密な対応が確立されている量子純粋状態に基づき、量子もつれの量の空間分布を表す一般的な関数を導出。また同じ関数が、孤立量子系の非平衡定常状態や量子系のエネルギー固有状態といったさまざまな量子純粋状態の量子もつれの空間分布に対して共通してよく当てはまることを確認した。

これによって、熱力学系と対応した量子純粋状態における量子もつれの量が、系の詳細によらない普遍的な性質を持つことが示された。

同成果に関して研究グループは、「量子純粋状態からの熱力学の構築にとって必要不可欠な、孤立系における量子もつれの理解を深めるもの」、「今回見出された普遍的性質を用いることで、冷却原子系やイオントラップ系といった外界から孤立した量子系の実験データから、その量子系の量子もつれを高精度に解析することが可能になることが期待される」などと説明している。