NVIDIAは、AIによって業界に革新を興そうとしているスタートアップ企業を支援するInceptionプログラムを行っている。Inceptionは始まりとか開始という意味である。
その一環として、優秀なスタートアップ企業にInception Awardを与えて表彰を行っている。
今年のInception Awordに名乗りをあげた企業は約200社である。その中から、医療、自律型システム、エンタープライズの3分野で2社ずつをファイナリストとして選んでおき、最終的にGTC 2018の場で各分野の最優秀企業に賞を与える。
昨年のInception Awordの賞金は、3社合計で約150万ドル相当であったが、Inception Awordに参加した14社には、その後、ベンチャーキャピタルから合計1億8000万ドルの資金が集まったということである。
今年のInception Awordの審査員は次の4氏で、ベンチャーキャピタリストという感じの人たちである。そして、会場の出席者もGTCアプリを使って投票することができ、会場全体で1票を持つという仕組みになっていた。
義手義足制御と診断画像解析が競った医療分野
医療分野のファイナリストは、「Cambridge Bio-Augmentation Systems」と「Subtle Medical」である。
Cambridge Bio-Augmentation Systemsは、神経から信号を取り出して義手、義足を制御する技術を開発している。
次の図の左のノイズの塊のような信号から2段階の処理を行って右端のような信号を取り出して、義手、義足を動かす。
そして、プラグアンドプレイで義手や義足が動く、体への神経接続のUSBポートを実現するという。
MRI検査には2000ドル程度かかるが、その内の90%のコストは撮影にかかる費用で、専門家が読影するコストは10%程度である。10%の読影をAIで行おうというスタートアップは多いが、Subtle Medicalは撮影のコストを下げることにフォーカスしている。
左端の脳画像は約8分のスキャンで得られた高品質の画像、その右は約1分のスキャンで得られたノイズの多い画像である。その右はAIを使ってノイズを低減した画像で、8分のスキャンと同程度の品質になっている。また、右の写真は、ディープラーニングモデルを使って画像の精度を3倍に高めた例である。このように、AIを使うことにより、MRIスキャナを使う時間を70%-80%短縮することができる。
スキャン時間の短縮により、MRIスキャナ1台あたり、年間500万ドル以上の節約が実現できる。
また、PETによるアルツハイマー病の診断のケースでは、患者が浴びる放射線の量を1/100~1/200に低減できるという。
MRIスキャナを改造する必要はなく、撮影したデータをGPUクラウドに送り、AIを使った画像品質の改善を行う。これにより、安全なスキャンができ、クラウドの処理でリアルタイムに画像が見られるようになる。
米国だけでも対象とする市場規模は年間100億ドルに上り、患者には良いケアが提供でき、医師はより良い診断ができ、病院やヘルスケアシステムは費用を低減できる。
この医療分野のファイナリストのCambridge Bio-Augmentation SystemsとSubtle Medicalの対決は、Subtle Medicalが勝利を収めた。両者のプレゼンを聞いたが、技術の良し悪しはともかく、Subtle MedicalのAIを使って画像を改善することでMRIのコストを下げて利益を出すというビジネスモデルが分かり易く、かつ、ビジネスプラン的にも良くできているという感じであった。