NVIDIAは、AIによって業界に革新を興そうとしているスタートアップ企業を支援するInceptionプログラムを行っている。Inceptionは始まりとか開始という意味である。

その一環として、優秀なスタートアップ企業にInception Awardを与えて表彰を行っている。

今年のInception Awordに名乗りをあげた企業は約200社である。その中から、医療、自律型システム、エンタープライズの3分野で2社ずつをファイナリストとして選んでおき、最終的にGTC 2018の場で各分野の最優秀企業に賞を与える。

昨年のInception Awordの賞金は、3社合計で約150万ドル相当であったが、Inception Awordに参加した14社には、その後、ベンチャーキャピタルから合計1億8000万ドルの資金が集まったということである。

今年のInception Awordの審査員は次の4氏で、ベンチャーキャピタリストという感じの人たちである。そして、会場の出席者もGTCアプリを使って投票することができ、会場全体で1票を持つという仕組みになっていた。

  • ></span>審査員は、Goldman SachsのPawan Tewari氏、Fidelity InvestmentsのSteve Wymer氏、Coatue ManagementのJaimin Rangwalla氏とNVIDIAのJeff Herbst氏の4名。これに会場全体で1票を持つので5票の過半数を得た方が優勝

    審査員は、Goldman SachsのPawan Tewari氏、Fidelity InvestmentsのSteve Wymer氏、Coatue ManagementのJaimin Rangwalla氏とNVIDIAのJeff Herbst氏の4名。これに会場全体で1票を持つので5票の過半数を得た方が優勝

義手義足制御と診断画像解析が競った医療分野

医療分野のファイナリストは、「Cambridge Bio-Augmentation Systems」と「Subtle Medical」である。

Cambridge Bio-Augmentation Systemsは、神経から信号を取り出して義手、義足を制御する技術を開発している。

次の図の左のノイズの塊のような信号から2段階の処理を行って右端のような信号を取り出して、義手、義足を動かす。

  • ノイズの塊から信号を抽出し、さらに処理を行って神経のパルス信号を取り出す

    ノイズの塊から信号を抽出し、さらに処理を行って神経のパルス信号を取り出す

そして、プラグアンドプレイで義手や義足が動く、体への神経接続のUSBポートを実現するという。

  • プラグアンドプレイで義手や義足が動く体のUSBポートの実現を目指す

    プラグアンドプレイで義手や義足が動く体のUSBポートの実現を目指す

MRI検査には2000ドル程度かかるが、その内の90%のコストは撮影にかかる費用で、専門家が読影するコストは10%程度である。10%の読影をAIで行おうというスタートアップは多いが、Subtle Medicalは撮影のコストを下げることにフォーカスしている。

  • Subtle Medicalは撮影コストを下げることにフォーカスしている

    読影をAIで行おうという会社は多いが、Subtle Medicalは撮影コストを下げることにフォーカスしている

左端の脳画像は約8分のスキャンで得られた高品質の画像、その右は約1分のスキャンで得られたノイズの多い画像である。その右はAIを使ってノイズを低減した画像で、8分のスキャンと同程度の品質になっている。また、右の写真は、ディープラーニングモデルを使って画像の精度を3倍に高めた例である。このように、AIを使うことにより、MRIスキャナを使う時間を70%-80%短縮することができる。

スキャン時間の短縮により、MRIスキャナ1台あたり、年間500万ドル以上の節約が実現できる。

また、PETによるアルツハイマー病の診断のケースでは、患者が浴びる放射線の量を1/100~1/200に低減できるという。

  • ノイズの多い1分程度のスキャンの画像を、AIを使った処理で8分のスキャンと同程度に改善する

    ノイズの多い1分程度のスキャンの画像を、AIを使った処理で8分のスキャンと同程度に改善する。MRIスキャナの使用時間を70%-80%短縮し、年間500万ドル以上の節約になる

MRIスキャナを改造する必要はなく、撮影したデータをGPUクラウドに送り、AIを使った画像品質の改善を行う。これにより、安全なスキャンができ、クラウドの処理でリアルタイムに画像が見られるようになる。

  • AI処理を実行するGPUを備えたクラウドにデータを送る

    AI処理を実行するGPUを備えたクラウドにデータを送る。それだけで、画像品質が改善でき、より安全な画像がリアルタイムで見られるようになる

米国だけでも対象とする市場規模は年間100億ドルに上り、患者には良いケアが提供でき、医師はより良い診断ができ、病院やヘルスケアシステムは費用を低減できる。

  • 米国だけでも病院は5500あり、1年間に3500万枚のMRI、8000万枚のCTやPET画像が撮影される

    米国だけでも病院は5500、撮像センターは14000箇所あり、1年間に3500万枚のMRI、8000万枚のCTやPET画像が撮影される

この医療分野のファイナリストのCambridge Bio-Augmentation SystemsとSubtle Medicalの対決は、Subtle Medicalが勝利を収めた。両者のプレゼンを聞いたが、技術の良し悪しはともかく、Subtle MedicalのAIを使って画像を改善することでMRIのコストを下げて利益を出すというビジネスモデルが分かり易く、かつ、ビジネスプラン的にも良くできているという感じであった。

  • 医療分野の受賞者のSubtle Medicalの表彰

    医療分野の受賞者のSubtle Medicalの表彰。左から、NVIDIAのJensen Huang CEO、Subtle Medicalの創業者でスタンフォード大のGreg Zaharchuk教授、同じく創業者でチーフサイエンティストのEnhao Gong氏、NVIDIAの創立者のChris Malachowsky氏、NVIDIAのヘルスケアとAIビジネス開発担当副社長のKimberly Powell氏