スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)と環境エネルギー技術の研究開発企業GRT Groupは、ギ酸を利用した燃料電池の開発に成功したと発表した。燃料電池に使われる水素は貯蔵・輸送が技術的に難しくコストがかかるという問題があるが、水素のキャリアとしてギ酸を利用することでこの問題を解消できる可能性があるという。

  • ギ酸系燃料電池ユニット (出所:EPFL)

    今回開発されたギ酸系燃料電池ユニット (出所:EPFL)

水素燃料電池は二酸化炭素を発生させずに電気や熱を生成できるクリーンなエネルギー源である。しかし、水素の体積あたりのエネルギー容量が非常に低く、気体の状態で水素を貯蔵・輸送することが難しいという問題がある。

この問題の解決方法のひとつに、水素キャリアとしてギ酸を利用するというアイデアがある。ギ酸の化学式はCH2O2であり、水素(H2)と二酸化炭素(CO2)のもっとも単純な組み合わせで構成されている。また、ギ酸は通常の自然条件下で液体として存在するため、気体の状態で存在する水素と比べると、貯蔵・輸送などの扱いが容易であるという長所がある。このためギ酸は水素キャリアとして適した材料であるといえる。なお、1リットルのギ酸によって590リットルの水素を運搬することが可能であるという。

研究チームは今回、水素キャリアとしてギ酸を用いた燃料電池の開発に取り組んだ。デバイスは大きく分けて、水素再生成装置(HYFORM)とプロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)という2つの部分から構成されている。

この水素再生成装置はギ酸から水素を取り出す役割を担うもので、現状の装置ではルテニウム触媒が使われているが、現在はもっと安価な触媒でルテニウムを代替する研究にも取り組んでいるところであるという。

製作された燃料電池ユニットは出力800W、年間発電量7000kWh、発電効率は最大45% という性能であると報告されている。硫黄処理の必要がないなどメンテナンス性にも優れており、触媒性能も長期間にわたり安定しているという。

  • ギ酸系燃料電池ユニットの仕組み (出所:EPFL)

    ギ酸系燃料電池ユニットの仕組み (出所:EPFL)

ユニット内では液体のギ酸から気体の水素と二酸化炭素が生成され、発電の過程で水素と外部の酸素から水が生成される。このとき二酸化炭素が残ることになるが、これは捕集されてギ酸の生成に再利用できるので、環境中に二酸化炭素が放出されることはないとのことだ。

今回の燃料電池ユニットは家庭向けにも産業向けにも拡張可能であるとしている。また、燃料として液体のギ酸だけがあればよいので、送電網の届いていない僻地での電力源としても有望と期待されている。