遠く離れた場所に自分の意識・感覚を「瞬間移動」させ、旅行、医療、教育などさまざまな体験を実現する。そんな未来を見据え、動き出したのが航空会社のANAだ。

ANAホールディングスは3月29日、同社が策定した新規事業方針「ANA AVATAR VISION」に関する記者説明会を、羽田空港において実施。そのなかで、「AVATAR」を体験可能なサービスプラットフォーム「AVATAR-IN」を初公開した。

  • サービスプラットフォーム「AVATAR-IN」

    サービスプラットフォーム「AVATAR-IN」

ANAの「AVATAR」構想とは

ANAが未来のサービスとして開発を進める「AVATAR」は、単一のシステムを指すのではなく、さまざまな「瞬間移動」の手段の総称となっている。自分の意識を遠隔地に届け、その土地の人々とコミュニケーションをとる、あるいは現地での行動を体験できるようなサービスの実現をめざす。

  • 現在の「ANA AVATAR VISION」の構成図

    現在の「ANA AVATAR VISION」の構成図。

「AVATAR」実現に向け、同社はふたつの柱を設けている。ひとつは、高性能なAVATAR開発のために、XPRISE財団と合同で行う賞金レース「ANA AVATAR XPRIZE」。専門的な動作から日常動作まで1台でまかなえ、かつ一般ユーザーが容易に扱えるAVATARの開発をゴールに掲げており、賞金総額は1000万ドルにのぼる。このレースには、すでに150チームが登録しているという。

もうひとつが、「既存技術の市場テスト」を行い、サービス化の準備を進めるための活動。これには、大分県と提携し、同県をANA AVATARのテストフィールドとするものと、同社が運営するクラウドファンディング「WonderFLY」がある。

  • 「ANA AVATAR」のパートナー企業

    「ANA AVATAR」のパートナー企業

  • 「ANA AVATAR XPRIZE」概要

    「ANA AVATAR XPRIZE」概要

このたび発表されたサービスプラットフォーム「AVATAR-IN」で提供するコンテンツについて、現状は後者の「既存技術の市場テスト」を通して開発を行っていく。現在開発中の4つのコンテンツのデモンストレーションが行われた。今後も開発を進め、早いものでは2019年4月からのサービス開始をめざしている。

  • 発表会で披露されたサービスデモは4種類

    発表会で披露されたサービスデモは4種類

  • 今後のスケジュール

    今後のスケジュール

  • ANAホールディングス 代表取締役社長 片野坂真哉氏

    ANAホールディングス 代表取締役社長 片野坂真哉氏は、顧客の体を遠隔地に移動させてきたANAが、次のステップとして「ANA AVATAR」を新たなライフスタイルとして提示したいと語った。

  • 実証実験の地となる大分県の広瀬勝貞知事は、Suitable TechnologiesのBeam Proを用いて遠隔地より挨拶を行った

    実証実験の地となる大分県の広瀬勝貞知事は、Suitable TechnologiesのBeam Proを用いて遠隔地より挨拶を行った。

「AVATAR-IN」サービスデモ

ANA AVATAR FISHING

  • ANA AVATAR FISHING

    ANA AVATAR FISHING 体験の様子。HMDはFOVEを使用。

  • ユーザーの操作だけでなく、現地の釣り竿にかかった力がユーザー側にフィードバックされる。

    ユーザーの操作だけでなく、現地の釣り竿にかかった力がユーザー側にフィードバックされる。

遠隔地の海などで釣りをする体験を実現するためのサービス。このデモでは、AVATAR特区である大分県佐伯市での海釣りが想定されており、ユーザーが操った釣り竿の動きと、佐伯市に設置された釣り竿の動きが同期する。竿を上げ下げした際の手応えはかなりリアルだ。

一方的な入力操作だけでなく、現地の釣り竿にかかった力がユーザー側にフィードバックされる。これは、慶應義塾大学 ハプティクス研究センターにおいて、大西公平教授を中心に開発されたリアルハプティクス技術(力触覚を伝達する技術)を活用して実現したものだ。こうしたリアルな釣りの体験に加え、釣った魚をユーザーの元へ配送するサービスも検討されている。

ANA AVATAR DIVING

  • ANA AVATAR DIVING

    ANA AVATAR DIVING デモンストレーションの様子

  • ロボットアームで貝をつかみどりする

    ロボットアームで貝をつかみどりする。

遠隔地の海でダイビング体験をし、その中で貝を採集するというコンテンツ。こちらも大分県佐伯市での実施を想定して開発されている。

ヘッドマウントディスプレイを装着し、海中のリアルタイム映像を見ながら、手の動きと連動するロボットアームを操って貝をつかんで収穫する。つかみ取りした貝を実際に送り届けるというコンセプトはFISHINGと同様だ。遠隔操作の技術開発は、サイボーグ技術の研究開発を手がけるメルティンMMIが行った。

ANA AVATA MUSEUM

  • ANA AVATA MUSEUM

    ANA AVATA MUSEUMでは、遠隔の観光地にある分身ロボット経由で、高精細な4K映像でリアルタイムに鑑賞が楽しめる。

遠隔地の美術館、水族館、博物館などを実際に動き回って鑑賞可能にするサービス。このデモでは、沖縄県の美ら海水族館の大水槽と、羽田空港をつないで遠隔地からの鑑賞を可能とした。

これは、凸版印刷がNTTドコモと共同開発した「IoA仮想テレポーテーション」技術を用いて実現したコンテンツ。定点観察だけでなく、分身ロボットを動かして視点や位置を変えられる。NTTドコモの5Gによるリアルタイム伝送を活用し、4K映像の送信を行った。

ANA AIRPORT SERVICE

訪日外国人向けに、遠隔地のスタッフがBeam Proを介して案内を行うというサービス。同社の全自動手荷物預けシステムの案内を、中国語を操るスタッフが遠隔地より即座に提供するという想定でデモンストレーションが行われた。

  • ANA AIRPORT SERVICE

    ANA AIRPORT SERVICEでは、訪日外国人ごとに異なる言語に対応できるよう、遠隔地のスタッフがサービス対応する。

クラウドファンディングでAVATAR関連技術を支援

このほか、ANAのクラウドファンディング「WonderFLY」で支援を募集中のロボット技術の展示も行われた。

遠い未来のハイテク技術を含めた要素技術を賞金レースで募りつつ、すでに実用段階に近い技術にも手を伸ばし、「瞬間移動」の実現に向けて動き出したANA。まずは直近、2019年4月のサービスインを目標として開発が進められている、「AVATAR-IN」の各サービスについて、その進捗に注目していきたい。