Samsung Electronicsの最新型スマートフォン(スマホ)「Galaxy S9+(64GB NANDモデル)で使用されている部品コスト(BOM)は、約375ドル80セントであるとの調査結果を英国の市場調査企業IHS Markitが3月22日(英国時間)、公表した。

  • Samsung Galaxy S9+の外観

    図1 Samsung Galaxy S9+の外観 (表面、背面、および側面) (出所:IHS Markit)

  • Galaxy S9+の分解写真

    図2 Galaxy S9+の分解写真。デイスプレイのある表面(上)とメインカメラのある背面(下)、その間に電池、プリント基板、カメラモジュールなどが高密度で実装されている (出所:IHS Markit)

  • Galaxy S9+のプリント基板

    図3 Galaxy S9+のプリント基板。主要半導体チップが配置された表面(上)と多数の電子部品が配置された裏面(下) (出所:IHS Markit)

DRAMの価格高騰とカメラの高性能化で部品コストが上昇

IHS Markit コスト・ベンチマーキング・サービスのシニアディレクターであるAndrew Rassweiler氏

図4 IHS Markit コスト・ベンチマーキング・サービスのシニアディレクターであるAndrew Rassweiler氏

Galaxy S9+の部品コストは、2017年に発売されたGalaxy S8+の部品コストより43ドル高くなっている。これについてIHS Markit コスト・ベンチマーキング・サービスのシニアディレクターであるAndrew Rassweiler氏は、「S9+のBOMコストが高くなってしまったのは、DRAM価格の大幅な高騰ならびにNANDの高騰、そしてスマホに搭載されている魅力的なデュアルレンズのメカニカル・アパーチャ・カメラモジュールのコスト上昇によるところが大きい。ただしS9+のスクリーンはS8+よりも明るく、カメラも高性能化している」と述べている。

高性能なカメラモジュール

Galaxy S9+の最もわかりやすい特徴は、12Mピクセル・デュアルレンズカメラである。可変絞り(F1.5とF2.4)機能が組み込まれている。このほか、イメージオーバーサンプリングや毎秒960フレームというスローモーションなどの機能も備わっている。背面および表面、および虹彩カメラやその付属部品を含むカメラモジュールのBOM コストは44ドル95セントであり、このうち背面のメインカメラのコストが34ドル95セントと、カメラモジュールにかかるコストの8割を占めている。

Rassweiler氏は、「Galaxy S9+に搭載されているメインカメラモジュールは、私たちが今までに分解し、コストを見積ったどのスマホのカメラモジュールよりもはるかに高価である。スマホメーカーにとって、カメラの技術的な高性能化は、スマホの差異化を図る有力手段であり、業界ではカメラモジュールにいくら費用をかけられるかに焦点が当たっている」とカメラ性能に注目している。

CMOSイメージセンサはソニー製から自社製に変更

メインカメラに使われているCMOSイメージセンサは、Samsungがソニーに対抗して開発した「ISOCELL」と呼ばれる画素構造を採用したもので、従来のソニー製イメージセンサから自社製に置き換えられている。しかし、IHS Markitは、そのセンサを誰がカメラモジュールに実装しているか未確認としており、うわさレベルの話として韓国国内のOEMが行っていると見ている。なお、Samsungは今年に入り、ISOCELL専用のWebサイトをたちあげ、一部の半導体メモリラインをイメージセンサ量産に振り向けて増産体制を敷き、ISOCELLの拡販に力を入れるとしており、ソニーに対する追い上げの動きを強めている。

  • SamsungのISOCELLイメージセンサ

    図5 Samsung製のISOCELLイメージセンサ (出所:Samsung Webサイト)

改善されたセキュリティ

また、S9+は、虹彩認証と顔認証を組み合わせた方法で認証を行いロックを解除する「インテリジェント・スキャン」を搭載。状況によりいずれかの認証方式を選択してロックを解除することができるほか、背面の指紋認証も、事前のうわさでは廃止されるのではないかといわれていたものの、S8+モデルに比べて人間工学的にもっと使いやすい位置に再配置されることで残された。

アプリケーションプロセッサは「Snapdragon 845」

前世代となるGalaxy S8+のアプリケーションプロセッサはQualcommのLTE CAT16対応プロセッサ「Snapdragon 835」であったが、Galaxy S9+では最新世代の「Snapdragon 845」へと変更された。これにはLTE CAT18モデムが搭載されており、LTEの最大通信速度は1.2Gbpsである。

Snapdragon 845はSamsung Foundry(Samsungのファウンドリ事業部)の第2世代10nmプロセスを用いて量産されており、IHSでは、RFトランシーバなどの周辺回路も含めたQualcommのチップセット一式のコストを67ドルと見積もっている。また、フロントエンドモジュール(RF360 Holdings、Qualcomm)、アンテナチューナ(Qualcomm)、トランスミットモジュール(Broadcom、Skyworks Solusions)などフロントエンド部の半導体チップ群については19ドルと見積っている。

価格高騰が続くメモリのコストは57ドル

S9+には、6GBのDRAMと64GBのNANDが搭載されているが、その合計コストは57ドルとIHSは見積もっている。DRAMは、Samsung製、NANDは東芝製としているが、これについては、Rassweiler氏は、「我々の分解したGalaxy S9+にたまたま東芝製NANDが搭載されていただけで、Samsungは、(BCPを含む)危機管理やコスト削減のため、自社を含め、複数社からメモリを購入しているようだ」と説明している。

明るく自然な色合いの有機ELディスプレイ

Samsungのスマホのディスプレイは、常に同社の社内調達部材のショーケースとなっているが、Galaxy S9+のディスプレイもその例外ではない。6.2型のアクティブマトリックス有機EL(AMOLED)(2960×1440ピクセル、解像度529ppi)は、輝度700nitで、前世代のS8+よりもやや明るい仕様となっている。タッチパネルなどを含んだディスプレイ一式のコストは79ドルで、このスマホで使われている部材の中で最も高価だという。

アップグレードされたワイヤレス充電

ワイヤレス充電の容量は、S8+では7WだったものがS9+では15Wにまで高められた。これらの電源管理IC(Samsung、Maxim Intergrated、IDT)のコストは、8ドル75セントと見積もられている。

このほか、カバーガラスはCorning製で5ドル10セント、センサ類(指紋センサは製造元未確認、ほかのセンサの製造元はSTMicroelectronics, 旭化成、Samsungなど)は5ドル50セント、バッテリ―パックはSamsung SDI製で4ドル90セントとIHSは見積もっている。

  • Galaxy S9+の部品リスト

    表1 Samsung Galaxy S9+の部品表(Bill of materials;BOM) (出所:IHS Markit)