東京医科大学は3月8日、尿中の代謝物濃度を測定し、そのパターンを人工知能(AI)で解析することで、大腸がん患者を高精度に検出する方法を開発したと発表した。

  • 尿中代謝物+人工知能を用いた大腸がんの検出 (出所:東京医科大学Webサイト)

同成果は、東京医科大学病院の勝又健次 教授と慶應義塾大学先端生命科学研究所の杉本昌弘 教授らの共同研究グループによるもの。詳細はスイスの科学誌「International Journalof Molecular Sciences Cancers 」に掲載された。

日本におけるがんの部位別年齢調整死亡率では大腸がんは高い傾向にある。多くの症例は大腸ポリープからがんになるといわれ、大腸ポリープで発見された場合には内視鏡的切除で根治が可能で、早期がんであれば高い確率で根治が望める。したがって、早期発見・早期治療が重要だ。

大腸ポリープおよびがんの発見を目的として、検診で便潜血反応を行うことが現時点での早期発見の可能性を高める唯一の方法だ。血中の蛋白マーカーのCEAをはじめとして、他の腫瘍抗原は感度、特異度共に一般の大腸がん発見のスクリーニングテストとして精度に限界があるため侵襲性が低く、感度・特異性が高く、簡便かつ安価な測定方法の確立が急務とされている。

これまで研究グループは、生体内の数百種類の代謝物を一斉に測定するメタボローム解析を行い、がん患者に特有の代謝物が血液などで検出することを目指して研究してきた。

今回の研究では、大腸がん患者、大腸ポリープ患者、健常者から尿検体を集め、液体クロマトグラフィ・質量分析装置(LC/MS)を用いて、イオン性の強い尿中代謝物を測定。その結果、がん患者において、代謝物の一種であるポリアミン類が、健常者やポリープを持つ患者に比べて濃度が高くなっていることを突き止めたとしている。

また、大腸がんの発症にはいくつかの遺伝子の変異が関わっていることが知られているが、これらの変異によってオルニチンと呼ばれる代謝物からプトレシンという代謝物が合成される経路が活性化される。

さらにプトレシンはさまざまなポリアミン類に代謝され、その中でも特にN1,N12-diacetylspermineと呼ばれる物質は、がん細胞から血液に移行し、尿中で濃度が高くなることは知られていた。しかし同物質による検査だけでは、精度が不十分であった。

今回、同物質以外にも患者ごとに異なる濃度パターンを示す別のポリアミン類の分子が観測できたために、これらの組み合わせをAIに学習させ、高精度に識別を行うことに成功したという。

今回の成果を受けて研究グループは、今後の展開について、大規模な症例データでの精度検証の実施、高精度で簡便な測定方法とシステムの開発など実用化に向けた研究開発を進めたいとしている。