マンチェスター大学の研究チームは、グラフェンに太陽光を当てることでグラフェンのプロトン伝導率が大幅に増加する現象を発見したと発表した。人工光合成デバイスなどにこの現象を利用できる可能性がある。研究論文は、「Nature Nanotechnology」に掲載された。

  • グラフェン膜をプロトンが透過するイメージ(出所:マンチェスター大学)

    グラフェン膜をプロトンが透過するイメージ(出所:マンチェスター大学)

近年、グラフェンがプロトン透過性をもっていることがわかり、プロトン伝導膜としてグラフェンを利用できる可能性が注目されるようになってきた。今回の研究では、グラフェンのプロトン透過性に対して光照射がどのような影響を及ぼすかについて調べた。

グラフェン膜の片面を白金ナノ粒子で修飾し、これに太陽光を当てたところ、プロトン伝導率が約10倍も増加するという予想外の現象が確認されたという。

電気的測定と質量分析法を用いてグラフェン膜の光応答性を測定したところ、104A/W程度という値が得られた。A/Wは光応答性あるいは受光感度の単位で、光電流(単位:A=アンペア)と入射光量(単位:W=ワット)の比率である。

この104A/Wという値では、グラフェン膜に太陽光由来の光子1個が入射することに対応して、水素分子5000個程度が形成されるという。既存の太陽電池を使って水素分子を生成する場合、水素分子1個を生成するために大量の光子が必要であり、これと比較するとグラフェンの光応答性は極めて大きな値であると研究チームは指摘する。

白金ナノ粒子で修飾したグラフェンの光応答性は、受光感度を高めるために特別に設計されている商用のフォトダイオードや二次元系の新材料で作製した受光デバイスなどと比べても何桁も高い。グラフェン膜の光に対する応答速度はマイクロ秒オーダーであり、一般的に使われている商用フォトダイオードよりも速いという。

通常の光検出器では受けた光を利用して電流を生成するだけだが、グラフェン膜の場合には電流の生成と同時に副生成物として水素を生成することができる。研究チームはこの現象の応用分野として、グラフェン膜を使った燃料電池、水素同位体分離、光による水分解、光触媒、光検出器などを挙げている。

グラフェンの発見でノーベル物理学賞を受賞したアンドレ・ガイム教授も同研究に参加しており、今回の発見について「原子レベルの薄い体積中にプロトン、電子、光子が同時に入っている本質的に新しい実験系である」とコメント。「この実験系から多くの未知の物理現象が見つかり、新たな応用が生まれるだろう」としている。