理化学研究所(理研)は、自己と他者が空間のどの場所にいるのかを認識する仕組みを、ラットの脳の海馬における神経細胞の活動を記録することで明らかにしたことを発表した。

同成果は理研 脳科学総合研究センターシステム神経生理学研究チームの藤澤茂義氏、檀上輝子氏、神経適応理論研究チームの豊泉太郎氏らの共同研究チームによるもので、米国の科学雑誌「Science」に掲載されるのに先立ち、オンライン版(1月11日付、日本時間1月12日)に掲載された。

  • 実験に用いたラットの行動課題。自己ラットは他者ラットが行った場所と反対の場所を選ぶと報酬がもらえる(出所:理研Webサイト)

    実験に用いたラットの行動課題。自己ラットは他者ラットが行った場所と反対の場所を選ぶと報酬がもらえる(出所:理研Webサイト)

我々は普段の暮らしの中で、さまざまな空間認識を自然に行っている。例えば、見慣れた街を歩いているとき、自分がいま最寄り駅からどのくらいの位置にいるのかを簡単に思い浮かべることができる。このような空間認識は、脳の海馬という部位がつかさどることが知られている。

脳の海馬には、空間における自己の位置を認識することのできる「場所細胞」という神経細胞が存在して、脳内で地図を構成することに役立っている。しかし、自己以外のものの空間位置情報がどのように認識されているかは、これまで解明されていなかった。

今回、共同研究チームは、2匹のラット(自己ラットと他者ラット)に、「他者観察課題」(自己ラットが他者ラットの動きを観察することで報酬がもらえる場所を知ることができるという行動課題)を学習させた。

このときの海馬における個々の神経細胞の活動を、超小型高密度電極を用いて記録した結果、海馬において自己の位置を認識する標準的な場所細胞に加え、他者の位置を認識する神経細胞が存在することを発見した。その際、特に場所細胞の中に、自己の場所と他者の場所を同時に認識する細胞が多かったことから、研究グループはこれを「同時場所細胞」と名付けた。

  • 同時場所細胞の活動パターン。ひとつの場所細胞が、自己の場所と他者の場所の両方に依存して発火活動をしている(出所:理研Webサイト)

    同時場所細胞の活動パターン。ひとつの場所細胞が、自己の場所と他者の場所の両方に依存して発火活動をしている(出所:理研Webサイト)

この研究では、海馬の場所細胞が自己の空間上の位置のみならず、他者の空間上の位置も同時に認識していることを明らかにした。この結果は、我々がどのように自己や他者の空間情報を認識しているかを解明する上で重要な知見となるということだ。