ゲームAIでは、どのようなことができるのでしょうか?

森川氏:ゲームAIは大きく2つに分けられます。1つは、ゲームの進行状況に合わせたキャラクターのメッセージ生成や、パラメータ設定、行動判断といった「ゲーム内のAI」。そしてもう1つは、バランス調整やデバッグ、データ分析など「ゲーム外のAI」です。特に後者のマーケティングなどに関わる部分の需要が増えていますね。

昔はゲームソフトを作りきるところまで考えればよかったのですが、現在はゲーム完成後の運営方法まで考えなければなりません。「どのくらいの頻度であればスマホのプッシュ通知が嫌がられないか」といった解析を、ゲームでも行うようになったのです。ゲーム内アイテムを購入する「課金」など、収益性を左右することからも重要性が高まっているのではないでしょうか。

ゲームAIが得意なこととしては、会話を自動生成するチャットボットのような機能が挙げられます。セリフなどは現在でも相変わらずシナリオライターが書いていますが、限られたイベント内のシナリオはAIを使って生成することが可能です。モンスターのパラメータ調整の需要も多いですし、広大なフィールドが必要な「オープンワールド」の作成の依頼もありますね。

  • ゲームAIでできること

    ゲームAIでできること

トップクリエイターと同じレベルまでAIがいけるとは言い切れませんが、そのアシスタントのレベルまでは近いうちに到達できるでしょう。特にAIはパターン認識が得意ですから、流行りものの真似ごとばかりしていると、シナリオライターに限らず仕事をAIに取られてしまうかもしれません。独自の感性を発揮した「自分にしか作れないもの」を打ち出していける人だけが生き残れると思います。

AIをゲーム会社に納品するまでには、どのようなフローがあるのでしょうか?

森川氏:まず、一番大事にしている作業が"期待値コントロール"。我々に声をかけてくださる方の中には「AIさえ導入できればなんでも解決できるだろう」とお考えの方もいらっしゃいます。AIは有能ですが万能ではありません。言葉を理解してコミュニケーションを図るシステムを望む人もいますが、まだ人の心をグッとつかむような会話を自動で行うことは不可能です。

そこで、「これはできるけどこれはできない」「これをするためにはこれが必要だ」というクライアントとのすり合わせを、プロジェクトが走り出す前に時間をかけて行います。高すぎる期待値を現実のラインまで引き戻すことが重要なのです。

そのあとの流れはプロジェクトごとに異なります。たとえば、既存ゲームにAIを組み込んで、パラメータなどを調整する場合では、AIの作ったパラメータがゲームの中でしっかりと動くように環境を整えていきます。

  • AIをゲーム会社に納品するまで

    プロジェクトが走り出す前に、時間をかけてじっくりとすり合わせを行う

また、AIを"ゲーム用にチューニング"するステップも非常に重要です。AIとひとことで言っても、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズム、エキスパートシステムなど、さまざまなモデルが存在します。わかりやすく喩えると、ペンチやハンマー、のこぎりといった工具のようなイメージです。それぞれ便利な道具ですが、のこぎりで釘を打っても意味はないですよね。AIも適材適所で、用途に応じて使うモデルが異なるため、いただいた案件ではどの道具を使うべきか整理します。さらに、AIは元々工学の世界で使われていた大きな道具なので、ゲーム機やスマホのようにプアなマシンで動くようにはできていません。同じハンマーを使うにしても、ゲーム用に小さく加工しなければいけないのです。

学習曲線にも「ゲームなりの工夫」が必要です。AIは最速で最適解にたどり着くことを命題として設計されていますが、ゲームでそれをやってしまうと開始5分でキャラクターが成長しきってしまい、楽しみがなくなってしまいます。最初はゆっくり学習していき、あるイベントがきっかけでグンと成長、そのあともやればやるほど賢くなっていくという「なだらかな成長曲線」を描けるようにチューニングする必要があるのです。

それらのチューニングには、「どのタイミングでどの程度成長すれば作品が盛り上がるか」といったゲームのノウハウと、「どの道具を使えばどのような成長ができるか」といったAIの知識の両方が必要です。そこは我々にアドバンテージがあるところで、20年前から積み上げてきたノウハウからすべて体感として理解しています。現状では当社以外にこのチューニングを行える企業はないでしょう。