内田洋行が現在、強く推進しているのは「働き方変革」と「学び方変革」。東京・新川の本社には、「未来の学習空間」を提案する「フューチャークラスルーム」や「働き方」・「働く場」変革の実証の場としてショールームを設置。全国から多くの見学者が訪れている。そこで、同社が考える「働き方変革」「学び方変革」と、その戦略について就任3年目を迎えた大久保社長に聞いた。

大久保 昇(おおくぼ のぼる)

株式会社内田洋行 代表取締役社長

1954年7月1日生まれ。京都大学工学部卒業後、内田洋行入社。
2003年7月 教育システム事業部長兼ICTシステムサポート部長
2005年7月 常務取締役執行役員
2008年7月 取締役専務執行役員
2010年7月 取締役専務執行役員 公共事業本部長 兼 教育システム事業部長兼教育総合研究所長
2011年7月 取締役専務執行役員公共本部長兼教育ICT・環境ソリューション事業部長 兼 教育総合研究所長
2013年7月 取締役専務執行役員 営業統括本部長 兼 公共本部長 兼 教育総合研究所長
2014年7月 代表取締役社長に就任。現在に至る

(以下敬称略)

2020年に向けて中期計画を策定されていますが、この狙いを教えてください。

大久保:私は社長就任時から2022年危機説というのを訴えています。要因の1つは2020年のオリンピックに向けた需要の先取り部分で、その反動でシュリンクする部分があります。もう1つは少子化で、これまでの少子化の流れが、2020年に向けて一時的に人々の意識から消えるようなことが起きると思いますが、2022年には、再び顕在化すると思っています。また、昭和22年生まれのベビーブームの世代が後期高齢者の75歳に達する年でもあります。

また、少子化の影響で、大学では2018年までに新入生が確保できる状態になっていないと、それ以降一気に転落するといわれており、私立大学の方は必死で対応されています。この人達が大学を卒業するのが2022年で、企業でもなかなか新入社員が採れない現象が起きてくると思います。このように、2022~2025年にかけ、いろんなことが困難になっていくと思います。そのため、2020年までに我々の事業を作り変えないといけないという内なる危機と、こういう日本社会の危機に対して内田洋行がお役に立てるような会社になっていれば、2022年以降も安心だと思っています。それに向けて、中期計画を考えています。我々の事業の95%が国内ですので、国内での変化に対応していかないといけないと思います。

M内田洋行の中期計画

それでは、中核である教育分野以外の事業を伸ばしていくということでしょうか?

大久保:そうではありません。20年前から、少子化のため教育事業は将来がないといろいろなところでいわれて来ましたが、実際は、一人当たりの教育費は増えています。そのため、トータル費用は変わらないか、若干の微増で推移しています。一人当たりの教育費が増えているのは、もっと効果的に教育をしたいからだと思います。人口が減ることで、そういった意欲が出てきます。そのため、今後は、教育の効果測定のノウハウを使って、より効果的な製品やサービスを提供していけるようになると考え、教育総合研究所を作りました。教育研究所は、良い意味で会社のカラーを変えており、タブレット事業などに活かされています。

今後、人口が減っていくなかでは、働き方変革、学び方変革が同義語で使われるようになっていくでしょう。そういったノウハウにより国内でもうまくやっていけると思いますし、モノ以外のサービスでも活かされると思います。

2016年はどういう年でしたか?

大久保:短期的には、日本は首都圏中心にプラス思考で推移しており、会社の業績も良い形で進んでいます。それを将来に向けて補完していくのが、働き方変革と学び方変革だと思います。それが、完全に内田洋行ブランドになっているとまではいえませんが、少しつづ浸透してきていると思います。

首都圏では新しいビルが造られ、それにあわせて働き方を変えたいというコンサルティングや、オフィス環境やIT環境を変えたいという需要が増えています。企業の中には、自分達の働き方を変えないと会社の未来はないという意識が徐々に出てきています。そんな中で、良品計画さんとの国産木材を活用した法人向けオフィスづくりでの協業の話が出てきました。

大学においても、教育の質を変えないと学生が来てくれないという危機感から、見える形で学び方変革をしたいという学校が増えています。また、これまではこういったことは大学のみの取り組みでしたが、2020年から教育カリキュラムが変更されることに伴い、知識ではなく、考え方が問われるようになるため、小中高にも広がっています。我々は、今後こういった社会に対応していかなければならず、2016年はその第一歩が歩み出せたという印象です。

国は、2020年までに小中で一人に1台タブレットを配布しようとしていますが、自治体によっては予算が確保できず、計画が進んでいないケースがあると聞きますが、実際はどうでしょうか?

大久保:今までの日本は、いい意味でも悪い意味でも横並びの意識がありましたので、アーリーダプターの次への浸透が遅く、みなさん横並びを待っている気がします。ただ、あるしきい値を超えたら、みなさん導入されるのではないかと思います。教育分野のIT化に関しては、2000年くらいまでは日本が一番進んでいました。しかし、そこで横並びになり、止まっています。ただ、今回は国も真剣ですので、普及していくのはないかと思います。これをやらないと、働き方変革を含めて日本の生産性は向上していかないと、みなさん気づき始めていると思います。

2017年は何に注力されますか?

大久保:公共系ビジネスでは、学び方変革と地域振興の2つは、2020年に向け安定的に支出されていくと思いますので、しっかりミートしていきたいと思います。教育ではタブレット商談の拡大がキーになります。弊社には無線LANやセキュリティの部分を含めて先駆者としてのノウハウがあり、アピールできる部分だと思います。

民間に関しては、インバウンド需要でどこまで伸びるかということもありますが、首都圏はすでにオリンピック・パラリンピックの計画もあり、2019年くらいまでは心配していません。オフィス関連事業については、これまでは家具中心に展開してきましたが、ITを取り入れながら働き方変革を実現していきたいと思います。

情報関連事業は、ソフトウェアライセンス事業が中心ですが、現在は、よりクラウドを利用したサービスにシフトしていますので、着実に推移していくと思います。

私どもは来年というよりも、この3年くらいの首都圏需要を取り込みながら、教育総合研究所と知的生産性研究所の2つの研究所を活用して、コンサルティングという新しいビジネスを提供できるように変わっていく必要があります。働き変革や学び方変革はもっとアピールしていかないといけないと思います。結果的にタブレットが入る、オフィス家具を導入する、ネットワークを改善するというは金額的にも大きいので、ついそちらに目が行きがちですが、内田洋行を働き変革や学び方変革ためのコンサルティング会社というイメージを強めていかなければなりません。本社にはショールームもありますが、今後は、実質的な部分も目に見える形にしていきたいと思います。そういう意味で協業も増やしていきたいと思います。