東京大学は、同大大学院農学生命科学研究科の村田幸久准教授と前田真吾助教らの研究グループが、食物アレルギーを発症させたマウスを用いて、アレルギー反応の原因となるマスト細胞が大量に産生する「プロスタグランジンD2」と呼ばれる物質の代謝産物「tetranor-PGDM」が、食物アレルギー特異的にかつ、症状の程度を反映して尿へ排泄されていることを発見したことを発表した。この成果は12月15日、国際科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

  • マウスの食物アレルギー症状とマスト細胞の消化管への浸潤

    マウスの食物アレルギー症状とマスト細胞の消化管への浸潤

食物アレルギーは日本で約120万人の患者がいるとされ、その数は上昇の一途をたどっている。特に子供に多く発症し、その症状はかゆみやじんましん、おう吐、下痢などの他、最悪の場合ショックを起こして死に至るケースもある。現在、食物アレルギーの確定診断には、医師が患者に抗原となる食べ物を実際に食べさせて症状が出るのを確認する「経口抗原負荷試験」を行う。しかし、この診断方法は施設の整った病院で、知識・経験ともにある医師が注意深く行う必要があるうえ、患者とその家族にかかる時間的・金銭的な負担も大きく、より簡単かつ客観的な診断方法の開発が求められていた。

このたび研究グループは、質量分析装置を用いて、食物アレルギーを発症させたマウスの尿の中に、症状の程度に比例して排泄される脂質分子(PGDM:prostaglandin D metabolite)を発見した。また、東京大学医学部附属病院との共同研究で、ヒトの食物アレルギー患者の尿でもこの脂質を検出することに成功した。

  • 尿中のPGDMは食物アレルギーのマーカーとなりうる

    尿中のPGDMは食物アレルギーのマーカーとなりうる

尿中に排泄されるこの脂質の濃度を測定することで、小さな子供から採血する必要なく、食物アレルギーを簡単に診断できるようになる可能性がある。 また、症状を客観的に評価することが可能となれば、現在行われている免疫療法や治療薬の開発の指標としても大いに役立つことが期待される。