既報のように、ispaceは12月13日、都内で記者会見を開催し、同社が独自に行う月探査ミッションについて発表した。開発に必要な資金として、101.5億円という大型の調達に成功。技術実証ミッションとして、2019年末に月周回、2020年末に月面着陸を行い、その後、月面輸送サービスを本格化させる。

  • 記者会見は銀座の観世能楽堂で行われた

    記者会見は銀座の観世能楽堂で行われた

  • ランダーのコンセプトモデル(1/5スケール)

    ランダーのコンセプトモデル(1/5スケール)

今回、第三者割当増資による出資を行ったのは以下の各社。出資額については非公表だが、リード投資家の産業革新機構のみ、35億円であることを明らかにしている。シリーズAによる総額101.5億円というのは、日本国内では過去最高額。また宇宙分野に限れば、世界最高額になるという。

  • 産業革新機構
  • 日本政策投資銀行
  • 東京放送ホールディングス(TBS)
  • コニカミノルタ
  • 清水建設
  • スズキ
  • 電通
  • リアルテックファンド
  • KDDI
  • 日本航空
  • 凸版印刷
  • スパークス・グループ

ispaceの袴田武史・代表取締役&ファウンダーは、「このように大きな資金を頂けたのは、新しい産業を作り出すという期待感があるからだろう」とコメント。「この大きな期待をモチベーションに変え、産業の構築に邁進していきたい」と意気込みを述べた。

  • ispaceの袴田武史・代表取締役&ファウンダー

    ispaceの袴田武史・代表取締役&ファウンダー

ちょうど、米国のトランプ大統領が有人月面探査の再開を指示したばかりだが、現在、官民を問わず、月面探査が注目を集めている。民間初の月面探査を狙う国際レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)は、いよいよ来年3月末の期限が目前。同社は日本のHAKUTOチームとして参加しており、月面探査ローバー「SORATO」を開発した。

今回、同社が発表した月探査ミッションは、このGLXP後を見据えたものだ。

ispaceが将来的に目指すのは、宇宙資源の活用により、宇宙に経済圏を作り出し、人間の生活圏を拡張すること。そのビジョンとして、今回、「MOON VALLEY」構想を示し、動画を公開した。これは2040年、「月面に1000人が住み、年間1万人が訪れる」世界を想定したものだ。

  • 2040年を想定したビジョンムービー

「地球の南極には2000人ほどが働いていて、年間数万人が旅行で訪れる。20年後には、月もそのようになっておかしくないし、我々はそのような時代を作りたい」と袴田氏は述べる。そのきっかけとなるのは資源だ。「地上では、資源があるところに人が集まり、街ができて、経済が回り出す。宇宙でも同じようなことが起こる」と見る。

資源として、最も期待されているのは水だ。水は生存に必要なだけでなく、電気分解すればロケットの燃料にもなる。「月面や宇宙に補給基地が整備されるようになれば、宇宙の輸送に大きな変革が起きる。20世紀はオイルの時代だったが、21世紀は水の時代になる」と袴田氏は言う。

  • 月には数10億トンの水が存在するという。これはロケットの燃料に

    月には数10億トンの水が存在するという。これはロケットの燃料に

その最初のステップになるのが、同社が実施する2回の月探査ミッションである。GLXPでは、同社はローバーのみ開発したが、今度はランダーから作ることになる。そのため、ランダー開発の責任者であるMohamed Ragab氏をはじめ、経験豊富なエンジニアを迎え入れ、準備をしてきたという。

  • 技術を主導する2人。CTOの吉田和哉氏(右)と、Mohamed Ragab氏(左)

    技術を主導する2人。CTOの吉田和哉氏(右)と、Mohamed Ragab氏(左)

ランダーのスペックは未定。今回はまだコンセプトモデルの披露のみだったが、小型軽量であることがコンセプトで、ペイロードは30kg程度、2台のローバーを運ぶことができる予定だという。

まず最初のミッション(M1)では、ランダーを月の周回軌道に投入し、月面の観測を実施。2番目のミッション(M2)で、月面への軟着陸を成功させ、ローバーの月面走行を行う。ただ最初のミッションでも、打ち上げるのはランダーであるので、チャレンジとして月面着陸を試すことは考えているとのこと。

  • M1のイメージCG。ランダーを打ち上げ、月を周回させる

    M1のイメージCG。ランダーを打ち上げ、月を周回させる (C)ispace

  • M2のイメージCG。月面に着陸し、ローバーによる探査を行う

    M2のイメージCG。月面に着陸し、ローバーによる探査を行う (C)ispace

着陸地点は今後検討するが、有力視されているのは縦孔の探査である。HAKUTOは当初、GLXPで、4輪ローバーと2輪ローバーをテザーでつなげたデュアルローバーシステムを開発していた。これはもともと、縦孔探査を想定していたもので、2輪ローバーを下ろして、縦孔の内部を調査することが考えられている。

  • 縦孔の内部は、まだ誰も見たことが無い。世界初の探査になるか?

    縦孔の内部は、まだ誰も見たことが無い。世界初の探査になるか?

この2回のミッションに必要な費用が約100億円とのことで、今回調達した資金をこれに充てる。一般的な感覚では、100億円というのは巨額であるが、宇宙開発においては、それほど大きな金額ではない。打ち上げ費も含むということなので、おそらくロケットは静止衛星への相乗りになるのではないだろうか。

2回の月探査ミッションで技術を実証した上で、2021年以降に、月面輸送サービスを商業展開する計画。同社の発表スライドでは、2021年だけで7回もの探査を行うことになっているが、これについて、袴田氏は「イメージしているのは月への定期便。毎月1回、送ることを目指している」とのことだ。

  • 2021年以降は高頻度に探査を行う。まさに月面への定期便だ

    2021年以降は高頻度に探査を行う。まさに月面への定期便だ