千葉工業大学(千葉工大)は12月5日、天体衝突によって火星から飛び出し、地球に飛来した「火星隕石」において、天体衝突の数値解析により、深部の岩石が、浅部の低衝撃圧力しか受けていない岩石をところてん式に押し出すというメカニズムで火星隕石が放出されることを発見したと発表した。

同成果は、千葉工大の黒澤耕介 研究員、岡本尚也 研究員、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の玄田英典 特任准教授らによるもの。詳細は米国の学術誌「Icarus」の電子版に掲載された。

「火星隕石」は火星上の岩石が火星重力圏を飛び出し、地球に飛来することで発見された隕石。火星サイズの惑星から宇宙空間へ物質を射出することは容易ではなく、火星上で起こった天体衝突によって火星の岩石が宇宙空間へ放出され、地球まで飛来したものだろうと考えられてきた。

火星隕石は岩石学的な分析によって、天体衝突時に30-50万気圧程度の衝撃圧を経験したことがわかっている。しかし、衝撃物理学の観点からは、天体衝突時に火星の重力から脱出する(秒速5km以上)ために50万気圧以上の強い衝撃波による加速が必要であることが指摘されており、火星隕石の具体的な放出メカニズムは未解明のままであった。

今回の研究では、異なる2種類の数値衝突計算コードを用い、火星物質が比較的低衝撃圧(30-50万気圧)で火星の脱出速度以上に加速(秒速5km)される条件を探った。具体的には、天体衝突の直下点近傍の物質の流れを、過去の研究よりも10倍以上高い空間解像度で解析を実施。その結果、高衝撃圧を経験した深部の岩石が浅部(表面付近)の低衝撃圧しか受けない岩石をところてん式に押し出すことで火星脱出速度以上の速度まで効率よく加速する「後期加速メカニズム」が働くことを見出したとしており、これにより、火星隕石における岩石学的分析結果と衝撃物理学の間の矛盾が解消されたという。

  • 火星隕石が地球に到達するまでの概念図 (出所:千葉工業大学Webサイト)

今回の成果を受けて研究グループは、今後の展開について、千葉工業大学惑星探査研究センターに設置されている二段式水素ガス銃を用いた衝突実験を行い、今回の数値解析で新たに発見された放出メカニズムを実証していくとコメントしている。