北海道大学は、韓国・成均館大学校、産業技術総合研究所(産総研)との共同研究で、青色発光ダイオードの材料である窒化ガリウム(GaN)からなる、半導体の電子の動きやすさを活かした半導体二次元電子ガスが、既に実用化されている熱電変換材料に比べ、2〜6倍も大きな熱電変換出力因子を示すことを発見したことを発表した。この成果は11月24日、ドイツのオープンアクセス誌「Advanced Science」に掲載された。
金属や半導体のゼーベック効果によって温度差を直接電気に変換できる熱電変換は、工場や火 力発電所、自動車などの廃熱を直接電気エネルギーに変換するクリーンなエネルギー変換技術として注目されている。
現在、いくつかの熱電変換材料が実用化されているが、これらは資源が少ないことから高価で、化学的・熱的な安定性が低いことと、それに伴う毒性などの問題点があり、大規模な実用化への障害となっている。特に、重金属元素のひとつであるテルルを含むテルル化ビスマスは、その希少性と毒性のため、同元素を使わない熱電変換材料の開発が活発に行われている。ここ数年、米国や中国で性能の高い熱電変換材料が報告されているが、性能が再現できないなど実用化にはまだ多くの課題がある。
今回、北海道大学電子科学研究所の太田裕道教授、同大学量子集積エレクトロニクス研究センター の橋詰保教授、韓国・成均館大学校の金聖雄教授、産業技術総合研究所の山本淳研究グループ長らの共同研究グループは、「どうすれば熱電材料を高性能化できるのか?」を簡単にモデル化し、将来の熱電変換材料の高性能化に繋がる材料設計指針を提案することを目的として、焼結体ではなく、粒界が存在しない「単結晶」を用いた研究を行った。
熱電材料を高性能化するには、材料の電気的な性質である熱電変換出力因子を増強する方法と熱的な性質である熱伝導率κを低減する方法があるが、今回の研究では熱電変換出力因子を増強するための仮説を立て、実験によってこれを検証する方法をとった。
窒化アルミニウムガリウムからなる半導体二次元電子ガスの上に、静電気力を変化させるための絶縁体層(酸化アルミニウム)を乗せ、熱電効果計測用のソース、ドレイン、ゲート電極を備える3端子の薄膜トランジスタ構造を作製。ゲート-ソース電極間にマイナス電圧を加えると二次元電子ガスの電子濃度が減少し、逆にプラス電圧を加えると二次元電子ガスの電子濃度が増加する仕組み。トランジスタ特性と熱電効果は、小さな材料の計測が可能な装置を自作して計測した。ゲート-ソース間に一定電圧を加え、二次元電子ガスの電子濃 度を制御した状態で、二つのペルチェ素子を用いて二次元電子ガスに温度差を与え、ソース-ドレイン電極間に発生する電圧(熱起電力)を電圧計で計測した。
半導体二次元電子ガスの電子濃度を、静電気力(ゲート電圧)を変化させることで制御し、その時の電子移動度を計測したところ、予想どおりシート電子濃度を高めても半導体二次元電子ガスの電子移動度は減少せず、大きな電子移動度が維持されることがわかった。一方、熱電能は一般的な半導体に見られる傾向と同様に、シート電子濃度の増加に伴いその絶対値が減少した。既に報告されている一般的な半導体窒化ガリウムの熱電能と電子濃度の関係から、二次元電子ガスの正味の電子濃度を求め、計測した移動度と掛け合わせて導電率σを算出した。
半導体二次元電子ガスの出力因子は極めて大きく,一般的な半導体窒化ガリウムの10倍以上であり、既に実用化されている最先端の熱電変換材料の2〜6倍に相当する。このように大きな出力因子が得られたのは、一般的な半導体では不純物濃度の増加に伴って電子移動度が大きく減少してしまうのに対し、半導体二次元電子ガスでは大きな電子移動度を維持することができるためである。
今回の発見は、温度差を電気に直接変換する熱電材料を高性能化するために有力な材料設計 指針となる。将来、工場や火力発電所, 自動車からの廃熱を電気に変えて有効利用する技術に繋がることが期待される。