日本マイクロソフトは2017年11月8日、同年10月から開始した「Microsoft Mixed Realityパートナープログラム」において、博報堂プロダクツ、ハニカムラボ、ホロラボが加わったことを明らかにした。同年9月には博報堂、wise、ネクストスケープの名を挙げていたため、合計6社が同パートナープログラムに参加したこととなる。日本マイクロソフトのMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens(以下、HoloLens)」を核に広がりを見せるMRビジネスだが、今回各社のMRアプリケーションを体験する機会を得たので、その一端をご紹介したい。

HoloLensでマンション購入体験に臨場感を

HoloLensを活用した新築マンション販売向けビューアー「ホログラフィック・マンションビューアー」を展示するネクストスケープは、従来のWebや紙といった2D情報では直感的に理解しにくかった建築物のイメージを視覚的に把握するサービスを展開する。会場の都合から150分の1スケールのマンションをHoloLens内に映し出していたが、実際の建築物がある場所へ訪れた時と同じ感覚を得ることが可能だった。

ネクストスケープの「ホログラフィック・マンションビューアー」。周りの建築物を模型として用意し、前景マスキング機能を併用すれば、建物が建った際の雰囲気もくみ取れる

ホログラフィック・マンションビューアーは建物の完成イメージを現地にて原寸表示を行う「リアルサイトビューアー」と、建物の外観模型をホログラム表示し、日照シミュレーションなどを行う「ホログラフィック外観ビューアー」と2つの視点を用意しているものの、筆者が体験したのは前者である。例えば5階のバルコニー付き物件を選択すると、そこがハイライト表示され、建築物全体のどこに部屋があるのか、部屋から非常階段までの距離はどの程度かなど、多くの情報をその場で確認できるのは大きい。

試着体験がHoloLensで加速する

現実の世界と仮想世界を融合させるMRの利用シーンとして、当初から想定された洋服のマッチングを実現するのは、ハニカムラボのHoloLensを利用したバーチャルフィッティングである。DMM.makeと共同開発した同サービスは、試着したい人の3Dデータもしくは、身長や体重を入力して作り上げた仮想マネキンに、用意した多数の洋服を組み合わせるというもの。

ハニカムラボのバーチャルフィッティングサービス。仮想マネキンを使った試着で、洋服を自由に組み合わせることが可能だ

あたかも自分が試着しているかのように、洋服の柄やパターンを選べば、店頭で試着するような手間も不要になる。体験時は女性向けコンテンツしか用意していなかったため、100%の試着体験とはならなかったものの、店頭購入はもちろんEコーマスによる洋服購入を推し進める技術であることは確信できた。執筆時点で、エンドユーザーが体験するまでのビジネスモデルは構築できていないが、洋服購入に新たな選択肢を与える興味深いサービスである。

3D化で医療の現場に多くの気付きを

脊椎病院向けに開発したCTスキャンビューアーと、共有可能な音声アノテーションコンテンツを展示していたホロラボは、稲波脊椎・関節病院と共同で3Dホログラムによる模擬骨をHoloLensに映し出し、脊椎・関節手術トレーニングの実現に取り組んできた。3Dの長所として医師の観察した角度や治療ポイントを仮想ピンや音声メモで残し、多数の情報を医師同士で共有できる。

ホロラボの脊椎病院向けCTスキャンビューアー。患部の問題を発見した際の視点なども考慮し、仮想ピンや音声で記録を残せる

Windows Mixed Realityデバイスを併用したリモート参加なども可能だ。その理由として担当者は、細かい操作はHoloLensよりも、Mixed Realityモーションコントローラーを使った方が使いやすい場面があると説明した。また、リモート参加時の音声チャットはWebRTCを併用し、低レイテンシーを実現している。

建築現場のデジタル化を推し進める「Holostruction」

小柳建設は早期からMicrosoft Mixed Realityパートナープログラムに参加し、建設業における計画・工事・検査の効率化と、アフターメンテナンスの履歴管理を可視化する「Holostruction」プロジェクトを続けてきた。2017年4月の時点で一定の成果を見せた同社だが、最新版のHolostructionは「Mobile Holoportation」のプロジェクト名で知られていた、リモート参加機能を実装している。

こちらは「Holostruction」のイメージ図。リモート参加で工事現場の進捗状況を共有し、建築というアナログな業種のデジタル化を目指している

HoloLensのディスプレイには遠隔地にいる担当者がアバターとして登場し、ビデオチャットや利用者の視点を示すポインターが画面内を駆け巡っていた。今回は担当者がすべてを操作して筆者は説明を受けながら、その様子を眺めているだけだったが、建築現場というファーストラインワーカーのワークスペースでMRデバイスが実際に利用できる可能性があることを実感できた。

建築前に現場を練り歩き、問題を事前確認

最後のニコン・トリンブルは、地理空間のデジタル化ソリューションを展示していた。同社は建築時の各工程をクラウド経由で共有する「Trimble Connect」を提供しているが、今回はこの3DモデルデータをHoloLensで確認できるサービスを体験した。利用者は建築データ内を歩き回ることで、あらゆる角度から設計干渉の確認や施工計画の修正などに取り組める。

ニコン・トリンブルは建築データを3Dモデル化し、各所を歩き回ることで事前に問題点を確認できる

ニコン・トリンブルが用意したヘルメット。HoloLensはアタッチ式で取り外せる

ニコン・トリンブル担当者曰く、建築現場ではヘルメット必須の場面が多いため、HoloLensと合体できる特殊なヘルメットを用意しているという。なお、同社はHoloLensを利用したサービスを既存商品に対する付加価値と捉えており、小柳建設とは異なるアプローチで建築現場のデジタル化を目指している。