アドビ システムズは9月27日、Adobe Creative Cloud(以下、CC)に付随するフォントライブラリサービス「Adobe Typekit」(以下、Typekit)の収録する日本語フォントに、視覚デザイン研究所、字游工房、大日本印刷(DNP)、フォントワークスの4社の74書体が追加されたことを発表した。
追加書体(一部)
Typekitは、「源ノ明朝」などアドビが制作したフォントに加え、世界各国のメーカー製フォントの中から特定のものをライブラリとして提供するもので、1つのライセンスでデスクトップ/Webフォントの両方に対応するのが特徴だ。現在(9月26日時点)、欧文が1万書体以上、和文が97書体提供されており、今回の追加で和文が合計171フォントに拡大した。
収録フォントは、CC有償メンバーシップを持つユーザーであれば追加費用なしで利用できる。2015年、フォントメーカー「モリサワ」の書体追加で話題となったが、日本語フォントの追加としては今回それ以来の大幅なアップデートとなる。
アドビシステムズ マーケティング本部 常務執行役員 秋田夏実氏は、「フォントはデザイナーに欠かせないものだが、その一方でコストにもなっている。生産性の高い高品質なフォントを(CC以外の)追加費用なく利用していただけるようになった」とコメントした。
また、同社 研究開発本部 日本語タイポグラフィ 山本太郎 シニアマネージャーは、「デスクトップフォントに関して言えば、共有されたIllustratorのファイルを展開したら指定フォントが見つからなかった…という状況は代表的なトラブル。これからは、指定フォントがPC上にない場合でも、それがTypekitに収録されていれば、ファイル展開時に自動で同じ書体の利用がサジェストされてトラブルの発生確率を抑えられる」と、同社のフォントライブラリに収録書体が増えることのメリットを説明した。
商用フォントの「定番」から複数ピックアップ
今回追加されたのは、字游工房「游明朝体R」、DNPの「DNP 秀英明朝 Pr6 L」などDTPの現場で雑誌の本文に使われているような歴史のある書体から、特徴的なデザイン書体まで多岐にわたるが、商用利用されている各社の主力フォントからのピックアップが目立つ。
商用フォントは基本的に細字~太字までウェイトを取りそろえた「ファミリー」で構成されているが、今回の追加書体では同一書体でウェイトが複数提供されているもの、特定のウェイトのみのものなどさまざまだ。また、例えば今回の収録フォントのひとつであるフォントワークスの「マティス」に関して、アニメ作品「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズの題字で使われた極太の「マティス EB」ではなく、書籍の本文などで用いられるウェイト(文字の太さ)の「マティス ProN-M」が選ばれるなど、知名度だけで選んでいるのではなさそうだ。
では、追加フォントはどのような理由で選ばれているのだろうか。選出基準について問われたアドビ 山本氏は、「こちらで基準を設けるというよりは、それぞれのメーカーの考え方をできる限り反映するというのが基本姿勢。フォントの重複、文字セットの違いなど技術的な部分については当社にご相談いただいた上で決定している」と語った。
また、今後も日本語書体の追加を続けるのかという質問には、「Typekitのライブラリを充実させることで、クリエイターがさまざまなフォントを使いやすくなる環境をつくるというゴールがあるため、できる限り今後も拡張を続けていきたい」と回答した。
一般的に、デザイナーがフォントを利用する際、フォントベンダーが提供するフォント集を購入し、それでは足りない場合に特定の書体を指名買いすることが多い。アドビのTypekitは、各社の定番フォントをつまみ食い的に総覧できること、またデスクトップフォントとWebフォントを兼用できることから、フォント利用の「常識」からは少し外れている。
現状、Typekitは欧文ラインアップが中心で日本語フォントは充実していると言いがたいが、これからラインアップが広がるなかで、デザイナーの仕事道具といえる同社ソフトとバンドルされている強みがどのように作用し、デザインの現場やWebフォント環境に影響を与えていくか、業界内外から関心が寄せられそうだ。