九州大学は9月13日、聴覚の錯覚を用いて時間知覚・判断に対応する、ヒト脳内での神経活動を明らかにし、ネットワークモデルを提唱したと発表した。

同成果は九州大学大学院医学研究院臨床神経生理の飛松省三 教授の研究グループと、芸術工学研究院の中島祥好 教授、理化学研究所情報基盤センター計算工学応用開発ユニットの竹市博臣 専任技師の共同によるもの。詳細は英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

時間知覚判断ネットワーク(出所:九州大学Webサイト)

1秒未満の短い時間の知覚・判断は、音声言語や調和のとれた身体運動、音符や休符といった音楽のパターン認識に重要だ。しかし、実際に知覚・判断する時間には物理的な時間とは異なるさまざまな錯覚があり、また、その脳内メカニズムには未解明の部分が多く残されていた。

今回の研究では、独自の心理現象「時間縮小錯覚」を用いた脳磁図計測により、実際に知覚・判断する時間に対応した脳の働きを高時空間解像度で捉えた。その結果、時間間隔への注意と時間間隔の符号化は右半球側頭頭頂接合部(TPJ)に、時間判断は右半球下前頭皮質(IFG)に司られることが判明。時間判断を行うために音を聴き終った直後のIFGの神経活動の高まりは、中島教授が提唱した錯覚の仮説と合致したという。

錯覚に関連する神経活動。錯覚の起こる刺激パターンでのみ刺激終了後50ミリ秒以内で時間判断時に脳活動が高まる(図中黄色四角部分)(出所:九州大学Webサイト)

研究チームは同成果によって、今後、時間知覚判断の脳内ネットワークを理解することで、新しいリアルタイム処理技術が生まれる可能性があるとしている。また、単純な3つの音に挟まれた2つの時間間隔の異同を判断する課題においては、作業記憶などさまざまな機能が必要となることから、脳機能診断検査への応用(例えば、発達障害や認知症の診断マーカーなど)が期待されるとコメントしている。