京都大学は、互いに矛盾する聴覚情報が大脳皮質においてどのように処理されているのかを調査した結果、脳内では2つの手がかりが統合されて処理されているわけではなく、別々の状態のまま扱われていることが示唆されたことを発表した。
同成果は、同大医学研究科のAltmann Christian 准教授、健康長寿社会の総合医療開発ユニットの福山秀直 特任教授らの研究グループによるもの。詳細は、米国の科学誌「NeuroImage」に掲載された。
互いに矛盾する情報が同時入力されると、脳は、一方の情報を採用して解釈して他方の情報を抑制する、もしくは2つの異なる情報を統合するという方法をとる。
例えば、聴覚のみで音源の位置・運動を判断する場合は主に、音源が右に動くときに音波は左耳より右耳に早く到来する「時間差手がかり」と、同時に頭による遮蔽効果によって右耳により大きく音が入る「レベル差手がかり」という2種類の手がかりを使う。通常は、この2つの手がかりは矛盾することなく、音源の位置をある程度正確に判断することができる。しかし、これらの手がかりを互いに矛盾する方向に聞かせると、音像は一般に正面に知覚される。
今回研究グループは、人の大脳皮質がこのような矛盾した手がかりをどのように扱っているかを調査した。音像の中心が正面に静止しているように知覚されるために、一方の手がかりは右方向へ、もう一方の手がかりは左方向への移動に対応するように変化させ、実験参加者の頭皮に電極を貼付し、脳波(Electroencephalogram:EEG)を計測した。
その結果、矛盾した手がかりを呈示した場合でも、整合した手がかりを呈示した場合でも、基本的に同様な反応が得られた。これは、大脳皮質のような比較的高次の聴覚情報処理が行われている段階においても、2つの手がかりは別々に扱われていることが示唆されたものだという。
研究グループは、同結果に関して「大脳皮質において2つの情報が分かれて表現されていることが分かったが、そのそれぞれが、具体的にどのような形で処理されているかを理解するには、より詳しい研究が必要。この仕組みを解明することは、効果的な聴覚情報提示ディスプレイの開発や、脳機能障害の診断にも役立つと考える」と説明している。