富士通および富士通研究所は、橋梁の表面に取り付けたセンサーで振動データを収集し、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を活用して、内部の損傷度合いを推定できるセンサーデータ分析技術を開発したことを発表した。
日本では多くの橋梁の老朽化が進んでいることから維持管理業務が急増し、メンテナンスコストの増大や技術者不足などが社会問題となりつつある。そのため、橋梁など社会インフラの維持管理業務にICTを適用し、これらの問題を解決することが期待されている。
橋梁の点検業務は主に目視で行っているが、これだけでは構造物表面に現れた変状しか捉えられず、内部の損傷度合いに関する情報を把握できない。近年、点検業務のICT化に向けて、橋梁床版の表面にセンサーを取り付け、振動データから損傷程度の評価を行う試みがなされつつあるが、これまでの手法では床版内部の損傷度合いの正確な把握が課題となっていた。
富士通研究所は今回、時系列データに対するディープラーニング技術を拡張し、IoT機器などに搭載したセンサーより取得される変動の激しい複雑な時系列の振動データから抽出した幾何学的特徴を学習することで、構造物や機器などの状態の正常値との差を表す異常度や状態の急変を表す変化度を数値化し、異常の発生や特徴的な変化を検知する技術を開発した。これにより、さまざまな社会インフラや機器に対して、故障や劣化状態の推定・検証を行うことが可能になる。
同技術を、RAIMSによる加速試験(輪荷重走行試験)で取得された振動データに適用した結果、同技術で振動データから抽出した幾何学的特徴が、健全時はひとつの固まりにまとまっているのに対して橋梁に内部損傷が発生した際には形状が変化する結果が得られた。
さらに、幾何学的特徴の数値化を行い、そこから算出された異常度および変化度の結果と、床版内部測定用に埋め込んだ歪みセンサーの測定結果との一致を確認したことから、同技術の有効性を立証できたとしている。これにより、橋梁表面に取り付けた1か所の加速度センサーのデータ解析結果から、広範囲の橋梁内部の損傷度合いを推定できることを確認した。
同技術は内部歪みの発生を検知することから、損傷の初期段階の推定が可能で損傷の早期対策に貢献できる。今後実証実験を重ねることにより、橋梁内部の損傷度合いを、橋梁表面に取り付けたセンサーで遠隔から高精度に推定できるようになり、橋梁維持管理業務の高度化を可能にすると説明している。
なお、同技術に関して、今後も実際の橋梁の振動データを使った実証を重ね、2018年頃の社会実装を目指すとのことだ。