早稲田大学は、同大学理工学術院の片岡淳教授らの研究チームが、大阪大学、量子科学技術研究開発機構、浜松ホトニクスと共同で、ガンマ線を可視化する世界最軽量の小型カメラ(重量580グラム)を開発し、3種の異なる放射性薬剤を投与した生体マウスの3D同時分子イメージングに成功したことを発表した。この研究成果は5月18日、英国のオンライン科学雑誌「Scientific Reports」に掲載された。

(左)開発した「手のひらサイズ」のガンマ線カメラ、(右)検出器内部の構成

放射線イメージングは基本的に2次元静止画で、エネルギー情報は持たない。また、癌やアルツハイマー病の早期発見に有用なPET(陽電子断層撮影)も、511キロ電子ボルト(keV)のガンマ線を対象としており、画像は白黒となっている。しかし、任意のエネルギーのガンマ線を手軽に可視化できれば、生体内に特性や集積箇所の異なる多種多様なマーカーを投与して同時に追跡することが可能となり、情報量が劇的に増加することが期待できる。

研究チームは、環境計測用に開発したコンプトンカメラの高精度化に挑み、世界最軽量クラス(手のひらサイズ580g)かつ、高解像度の医療用コンプトンカメラ(ガンマ線可視化カメラ)を開発したという。

このカメラを利用して、生体マウスに異なるエネルギーのガンマ線を放出する放射性薬剤を投与し、ヨウ素(131I: 364 keV)は甲状腺に、ストロンチウム(85Sr: 514 keV)は骨に、また亜鉛(65Zn: 1116 keV)は肝臓を中心として肺や心臓、膵臓などに広く取り込まれるようすを、高精度(解像度約3mm)かつ短時間(2時間)で明らかにしたということだ。高感度の検出器を究極まで小型化することで「マルチアングル撮影」が可能となり、一様かつ3次元のカラー画像を得ることに成功したということだ。

(左)生体マウスに集積した各薬剤の2次元画像と3色合成画像、(右)マルチアングル撮影により取得した3Dマルチカラー画像

このたび開発されたセンサーは、小型ゆえにあらゆる応用が可能で、まさに「オンデマンド」の次世代放射線カメラとなると考えられるとし、今後はより高度な動物実験や応用に向け、画像の定量性を10%以下にまで改善することが目標だという。

今回の研究成果は、将来的にはより"人間の目に近い"ガンマ線カメラの実現につながり、また次世代分子イメージングの可能性を拡げるものだと説明している。