奈良先端科学技術大学院大学は、同大学物質創成科学研究科の杉山輝樹客員教授、廣田俊教授、台湾国立交通大学理学院応用化学系の増原宏講座教授らの共同研究グループが、光が物質に当たると生じる圧力(光圧)を用いて、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病発症の原因となるアミロイド線維というタンパク質の凝集体を、溶液中の任意の場所に、また望む時に人工的に作製することに成功したことを発表した。この研究成果は5月15日、ドイツの「アンゲバンテ・ケミー・インターナショナル・エディション(Angewandte Chemie International Edition)」に掲載された。
タンパク質が規則的に連なった集合体である「アミロイド線維」は、その人体内での沈着がさまざまな疾患に関与している。その治療・予防法を開発するためには、アミロイド線維の生成メカニズムを理解することが不可欠であるが、これまでアミロイドの生成場所と時間を予期したり、制御したりすることは不可能とされていた。
研究グループは、光と分子の相互作用によって生じる「光圧」を駆使し、溶液中で心臓に多く存在するタンパク質であるシトクロムcの複合体を局所的に集め、これを材料に球状のアミロイド線維凝集体を狙い通りの場所に作製することに成功した。この球状生成物は、アミロイド線維の存在を示す色素マーカーであるチオフラビンT存在下で非常に強い蛍光を示したという。
また、この球状凝集体を超音波処理で解くと、アミロイドに特徴的な線維構造があることが透過型電子顕微鏡によって観察でき、球状生成物はアミロイド線維の凝集体であることが証明された。
さらに、光のオンオフにより球状アミロイド線維凝集体を連続的に作製し、光を操作することで溶液中において凝集体を配列することも可能だという。これらの結果から、アミロイド線維の強固な構造を利用した次世代ナノテクノロジー素材などの新規材料としても期待されるという。
今回、光を使うことによりアミロイド線維の凝集体を狙った場所、望む時間に人工的に作製することに成功した。シトクロムcに限らず、多くのタンパク質がアミロイド線維を形成することから、今後さらに多くの種類のタンパク質に対して本手法が有効であることが示されれば、より多くの疾患のメカニズムの解明が期待できるとしている。
また、種々タンパク質のアミロイド線維を自由自在に配列することにより、望む場所、望む時間に、望む新しい機能を付与することが可能となり、アミロイド線維の新しい科学・工学を切り拓きたいと説明している。