東北大学は、同大学大学院生命科学研究科 高橋秀幸教授らのグループが、英国Nottingham大学、山形大学、京都大学、奈良先端科学大学などとの共同研究で、植物の根が水分の多い方向に伸びるために働く細胞群を明らかにしたことを発表した。この研究結果は5月8日、英国の科学誌「Nature Plants」(電子版)に掲載された。
植物は生育する場所で生存に有利な方向に伸びる屈性によって、さまざまな環境に順応できる。植物の根は、重力を感知して下側に伸びる(重力屈性)だけでなく、水分勾配にも応答して水分の多い方向に伸びる(水分屈性)ことができる。
同研究グループはこれまでに、根の水分屈性を証明し、植物ホルモンのアブシジン酸および陸上植物が有する MIZ1遺伝子が水分屈性に重要な役割であることや、アブシジン酸が MIZ1遺伝子の発現を上昇させて水分屈性を促進することを明らかにしていた。
今回の研究では、「シロイヌナズナ」という植物を用いて、根の先端部にある根冠および分裂組織をレーザー照射で破壊しても根の伸長に影響はなく、水分屈性が正常に発現することを明らかにした。
次に、アブシジン酸の働きを担うシグナル因子(SnRK2.2)および MIZ1の遺伝子の異常によって水分屈性がそれぞれ低下、欠損した突然変異体の根のさまざまな組織(細胞群)にSnRK2.2あるいはMIZ1を発現させ、それらのタンパク質をどの細胞群に発現させたときに突然変異体の水分屈性が回復するかどうかを調べた結果、SnRK2.2とMIZ1のどちらも根の伸長領域の皮層で発現するときに水分屈性が回復し、それ以外(根冠、分裂組織、表皮、内皮)で発現させても突然変異体の水分屈性を回復させることができなかったという。
これらの結果は、根が水分勾配を感知して屈曲する領域が伸長領域であること、水分屈性を誘導するSnRK2.2とMIZ1が皮層で働くことを示している。さらに、根が水分勾配を感知すると、水分の多い側に比較して水分の少ない側の皮層がよく伸び、水分の多い方向に屈曲することも判明した。すなわち、根は伸長領域の皮層に特異的な成長制御によって水分屈性を発現させることが明らかになった。
今回の研究で、根の屈性を発現させるまったく新しい仕組みの存在が明らかになった。この能力を重力屈性と独立して制御できれば、乾燥地などに応用できる節水型植物栽培法の開発に貢献することが期待できるとしている。