マンチェスター大学の研究チームは、黒リンの二次元薄膜「フォスフォレン」で超伝導の発現を確認したと発表した。黒リンおよびフォスフォレンは、トランジスタなどの電子デバイスに応用可能な二次元半導体として注目を集めている材料。超伝導体としての性質が加われば、超伝導デバイスや量子コンピュータなどへも応用範囲が広がると期待される。研究論文は、科学誌「Nature Communications」に掲載された。
二次元薄膜のグラフェンが多数積層し三次元化してバルクのグラファイトを形成するように、黒リンも二次元薄膜のフォスフォレンが積層したバルクの三次元物質として存在している。黒リンとフォスフォレンの関係は、グラファイトとグラフェンの関係によく似ているといえる。
リンの同素体である黒リンは、いまから100年ほど前、通常のリンに超高圧をかけることによって合成できることが発見された。最近になって大気圧で黒リンを合成する技術が開発されたことや、二次元薄膜フォスフォレンの合成が可能になったことで研究が活発化し、黒リンおよびフォスフォレンのさまざまな特性がわかってきた。とくに、フォスフォレンの高い電子移動度や、膜厚制御によってバンドギャップ調整が可能といった性質に注目が集まり、二次元トランジスタ材料としての研究が盛んに行われるようになってきた。
一方、超伝導材料分野の研究としては、バルクの黒リンに10GPa以上の超高圧をかけると、臨界温度4.8Kで超伝導状態を発現することが以前から知られていた。ただし、この方法では、超高圧の影響でリンの結晶構造が変化してしまい、黒リンというよりも白リンと呼ばれる別のリン同素体に近い物質になるとされる。黒リンの結晶構造を変えずに超伝導化する方法については、これまでよくわかっていなかった。
研究チームは今回、フォスフォレンの層間にアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を挿入するインターカレーションの手法によって、フォスフォレンを超伝導体にすることに成功した。リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウムといった原子を層間挿入したところ、いずれの場合も臨界温度3.8Kで超伝導状態を発現することが確認されたという。
グラフェンについても、インターカレーションを用いて超伝導化したとする報告があるが、グラフェンの場合には挿入する原子の種類によって臨界温度の値など超伝導発現の様態が変わってくる。一方、今回のフォスフォレン超伝導体では、挿入する原子の種類によらず超伝導転移温度が3.8Kと一定であるという特徴がある。このような例は他に知られておらず、「超伝導体としての性質がフォスフォレンに内在していることを示すものである」と研究チームは指摘している。