2月11日、ペーパーレス作画をテーマにした大規模フォーラム「アニメーション・クリエイティブ・テクノロジー・フォーラム2017」が開催された。

会場ではデジタル作画に関するツール、ソフトの展示などの他、アニメ制作会社によるセッションも多数行われ、デジタルを導入したことによる効果などが発表されていた。

初回に掲載したアニメ絵コンテのデジタル化事例に引き続き、今回は新興のアニメ制作会社「Creators in Pack(クリエイターズインパック)」による「フルデジタル作画元請け制作報告」と題されたセッションをレポートする。

アニメ制作のデジタル化を進めるCreators in Pack

当日、登壇したのは同社・大阪スタジオで制作進行とプロデューサーを務めるはたなかたいち氏と、2016年4月からTVアニメの作業も含めデジタル作業に切り替えたという業界歴11年目のアニメーター・谷口健太氏だ。

Creators in Packのはたなかたいち氏、アニメーター・谷口健太氏

Creators in Packの実績
(c) 施川ユウキ/一迅社・ド嬢図書委員会
(c) 影山理一 / マイクロマガジン社・奇異太郎少年の妖怪絵日記製作委員会
(c) OZMAFIA!!製作委員会

Creators in Packは2013年に設立されたアニメ制作会社で、国内には東京・大阪・名古屋・札幌などにスタジオを持っている。ショートアニメを得意としており、これまでに「ハッカドール THE あにめ~しょん」や「バーナード嬢曰く。」などを制作した実績を持つ。

はたなか氏と谷口氏が所属する大阪スタジオは、アニメーター、作監を含めメンバーは8名。加えてイラストレーター2名、演出2名、撮影3名、サーバエンジニア1名、仕上げ1名、経理総務などの事務2名が在籍しているという。

実ははたなか氏は現在、府立大の7年生ということで、休学中にラジオ作家やADを経験し、最終的にアニメをやりたいと考えてスタジオを設立したのだという。

開始当初は30分アニメのグロス制作や作画の下請けなど、紙での作画をメインで行っていたというが、現在ではショートアニメやPVなどの元請け制作も行っている。コンテからオフライン編集までを社内で作業しており、背景は在宅作業員に依頼するといった体制で進行しているとのことだ。

「CLIP STUDIO PAINT EX」を導入後、様々なメリットが生まれる

制作を進める中で、課題となったのは東京スタジオとのやりとりだ。

多くの地方スタジオは宅急便などでカットのやりとりをしているが、冬の時期などは降雪で遅延してカットが届かなかったり、紛失などのヒューマンエラーも発生する可能性がある。郵送で一日程度ラグが出てしまうこともあり、「この一日あればもっといろいろできるのに……」という思いが現場に生まれていたという。

こうした輸送コストに加えて、紙原画のスキャンの巻き込みやタイムシートの破損といったリスク、3Dとの融合における人的ミスなどを回避するために、同社ではデジタルへの移行を決定した。

ソフトは「CLIP STUDIO PAINT EX」を導入した。これはイラスト部門がすでに社内にあり、以前から使っていた社員がいたということと、比較的安価で導入できるという価格の問題があったからだという。

デジタルのメリットについては、進捗表の入力やカット回しなど、制作レスな現場を実現できたこと。作業を分担化できたこと。タップの貼り替えなしにカンバスの大きさを変更するだけで拡大作画ができるようになったことなどが挙げられた。これにより少人数運営も可能になったという。

デジタル導入時の動機をまとめたスライド。「僕が不器用だった」というのは、はたなか氏が制作進行の仕事のひとつである「タップ貼り」(紙の原画の上部に穴を空け、タップという金具でまとめて留める作業)など、図画工作の技量が必要な作業を不得手としていたことを指す。上述のとおり、デジタル作画になればこの作業は不要になる

また、アニメーターの立場からは、キャラ似せや調整精度が向上したという。たとえば頭の大きさや目の大きさを微調整する際、紙の場合は拡大縮小をしながら整えていたが、デジタルになったことで選択範囲や切り取りなどの機能が使えるようになり、1ドット分の微調整が可能になったというのだ。逆に「やれてしまうので時間をかけすぎる懸念もある」というが、クオリティはやはり向上したという。

クイックチェックも、紙のときはパラパラめくっていたというが、デジタルならばコマレベルで微調整できるため、精度がかなり向上。ムービー書き出しからチェックへと気軽に回せるようになったため、制作と作画の距離が縮まる効果も出ているという。

リテイクの対応にも踏み出しやすくなった。海外から上がってきた動画はときに崩れていたりもするが、それを手元で修正して完成を高めることができるようになったのだ。

また、鉛筆を手でこすって消したり、消しゴムで消そうとしてぐしゃっとやってしまうこともなくなったため、動画マンにとっては汚れを気にしなくていいのもデジタル作画の利点だ。この他、色トレス線(色鉛筆で引いている指示線)が引きやすくなったり、色鉛筆によってタッチが変化してしまうということもなくなったという。

デジタル化のデメリットと今後への期待

逆にデジタルのデメリットについては、まず「紙でやっていたときの質感が出ない」ことが挙げられる。ただし、ペンタブの進化でできることは増えており、今後についてはポジティブにとらえているそうだ。ちなみに、「ハッカドール THE あにめ~しょん」の制作時には、鉛筆の質感を出すためにスキャン画を上から重ねるなどの方法で対処したとのこと。

導入における障壁はやはり機材導入の予算にある

また、デジタル作画は覚えるのに時間と予算がかかる問題があるというが、これについても今後出てくるだろう若手はデジタル慣れしていることもあり、期待を寄せているという。さらに、すでに紙でキャリアを持っている人についても、気持ちさえあれば1ヶ月で現場レベルにはなるとしている。

デモンストレーションを通して感じたデジタル化の恩恵

ここからは実際に「バーナード嬢曰く。」の第9話を用いて、デジタル作画のデモンストレーションが行われた。

デモンストレーション時の様子
(c)施川ユウキ/一迅社・ド嬢図書委員会

その中では、「各フローを終えるごとに原画、作監、演出、動画のそれぞれの頭文字をつけてフィアル名でチェックフローを見えるようにしている」「フォルダが増えてきたら必要ないものをプールフォルダに入れて整理する」といった管理・運用のやり方や、「前のセルを選択、次のセルを選択にショートカットを割り当てている」といった具体的なテクニックなどが紹介された。

一連の進行の中で感じられたデジタルのメリットとしては、スキャン業務が不要になり、担当者の手が空いているときに撮影や仕上げを手伝ってもらえること、拡大作画をする際はしたいと思った人が制作を介さずに調整できること、カット袋を回す必要がないため制作業務の負担が軽減することなどがあるという。

今後、同社ではOVA、楽曲PV、ショートアニメでそれぞれ1ラインずつを立ち上げ、名古屋スタジオや東京スタジオでもデジタルを導入して大阪スタジオとの強化を図っていくとのことだ。

セッション終了後は質疑応答が行われ、サテライト中継されていた全国の会場からいくつも質問が挙がっていた。

デジタル導入により様々な恩恵を享受しているというCreators in Pack。今後は他の地方スタジオも含め、紙とデジタルの融合をメインテーマに据えていくという。