東京大学(東大)と理化学研究所(理研)は3月7日、空間反転対称性の破れた3次元層状化合物であるBiTeBrが磁場を加えた状況下で整流特性を示すことを発見したと発表した。
同成果は、東京大学大学院工学系研究科 井手上敏也助教、大学院生の濱本敬大氏、越川翔太氏、岩佐義宏教授、永長直人教授、十倉好紀教授らの研究グループによるもので、3月6日付けの英国科学誌「Nature Physics」オンライン版に掲載される。
空間反転対称性が破れた結晶は、非線形光学応答や非従来型超伝導状態など、さまざまな物理現象を示すことが知られている。特に、結晶対称性の電気伝導への影響は基礎・応用の両面から重要であり、整流特性は空間反転対称性が破れた物質で期待される特徴的な電荷輸送現象のひとつである。
BiTeBrは、Bi(ビスマス)、Te(テルル)、Br(臭素)の各原子層が積層した層状化合物。積層方向への鏡像反転対称性が破れており、結晶全体で電気分極を持つような極性物質である。このような極性物質においては、特有の電子状態が実現されることが知られており、面内に磁場を印加すると分極方向と磁場方向の両方に垂直な方位へ電子状態が歪み、その方向へ整流特性が生じることが期待できる。
同研究グループは今回、このBiTeBrにおいて結晶対称性の破れに起因する整流特性の観測を実施。実験では、BiTeBr試料を基板上に劈開してマイクロメートルサイズの試料を得た後、電子線描画装置を用いて電極を作製し、単一極性ドメインであると期待されるデバイスを作製した。
同デバイスの磁場下電気伝導特性を測定したところ、磁場を電流と平行に加えた場合には整流特性は観測されず、磁場を電流に対して垂直に加えた場合にのみ整流特性を観測。この整流特性の磁場方位依存性は、極性構造を持つ物質に特有の性質であるという。
さらに同研究グループは、観測された整流特性の温度・キャリア数依存性等を詳細に測定することにより、低温領域やキャリア数の少ない試料において、整流特性が著しく増大することを発見。これら低温・低キャリア数領域での整流特性の増大の振る舞いやその定量的な大きさは、極性物質に特有の電子状態に基づいた微視的なモデルによって適切に説明できることも明らかにしている。
今回の成果について同研究グループは、エキゾチックな結晶構造が示す機能性の探索を推進させるだけでなく、一般の空間反転対称性の破れた結晶における非線形電気伝導研究という新たな学術分野を切り開くものとして期待されるとコメントしている。