民間月面探査チーム「HAKUTO」は2月21日、日本科学未来館において月面探査ローバーの"命名式"を開催。公募していたローバーの名称が「SORATO」(ソラト)に決まったことを明らかにした。SORATOは今春完成する見込みで、12月28日にインドのPSLVロケットで月に向けて打ち上げられる予定だ。
HAKUTOは日本から唯一、月面レース「Google Lunar XPRIZE」(GLXP)に参加しているチームである。GLXPには昨年まで、世界の16チームが残っていたが、実際に打ち上げ契約までたどり着けた5チームがファイナリストとして認定され、最終ステージに進んだ。HAKUTOはその中の1チームとして、月面への一番乗りを目指す。
HAKUTOが開発しているローバーには、これまで正式な名称が無かった。その名称を決めるために昨年10月27日から11月18日まで命名コンテストを行っており、3万7000件もの応募があったという。HAKUTO代表の袴田武史氏、サカナクションの山口一郎氏、『宇宙兄弟』作者の小山宙哉氏、宇宙飛行士の山崎直子氏の4名が審査員として、選定にあたった。
袴田代表は、「このプロジェクトはより多くの人に応援してもらいながら続けていきたい。ローバーの名前は、みなさんが呼びやすい、親しみやすいものにしたいと思っていた」とコメント。「いろんな名前が出てきて、ワクワクしながら選べた。この名前の背景にはどんな想いがあるんだろうと話し合いながら審査した」という。
今回決定された「SORATO」は、ローバーの名前であると同時に、サカナクションの新曲のタイトルにもなる。「自分以外の人間が自分の楽曲の名前を決めるのは初めて」という山口氏は、「名前は自分でもいろいろ考えた。じつは歌詞の一部に、僕だったらこれにするという言葉を入れた」という裏話も明らかにした。
この日の報道向けイベントでは、プロジェクトの最新状況に関する説明も行われた。HAKUTOは現在、実際に打ち上げるフライトモデル(FM)の開発を進めているところで、これは春に完成する予定。その後、3~5月にさまざまな環境試験を行い、8月に射場があるインドへ輸送する。打ち上げ日は12月28日だ。
ところでHAKUTOは2015年、米国のAstroboticチームへの相乗りを発表し、同チームのランダーに搭載する前提でFMを開発してきたが、同チームがGLXPから離脱。土壇場で相乗り先をインドのTeamIndusに変更していた。これにより、開発にもさまざまな影響が出ている。
まず、ロケットがファルコン9からPSLVに変わったことで、打ち上げ時の振動環境が厳しくなる。すでに完了していたコンポーネント単位の振動試験をやり直す必要はあったが、もともと設計上、振動に対する余裕はあり、その範囲内で対応できるそうだ。PSLVは非常に信頼性が高いロケットで、月探査機を打ち上げた実績があるのは強みと言える。
ランダーが変わるため、ランダーとのインタフェースも修正が必要だが、搭載できるスペースや重量はほぼ同じとのこと。今回のイベントで登場したローバーのデザインはロケットの変更前に発表されたものであるが、外観についてはほとんど変更は無いそうだ。
TeamIndusの公開情報によれば、ランダーの離陸時重量は600kgで、その約3分の2は推進剤だという。ロケットは打ち上げの12分後にランダーを分離して、880×70,000kmの地球周回軌道に投入。地球を周回しながら遠地点を上げてから、月への遷移軌道に乗り、地球離脱後7日半で月面の高度100kmの地点に到達する。
ここでエンジンを噴射して減速、月を周回する軌道に投入。しばらく周回しながら着陸のタイミングを待ち、着陸地点が朝になる時点で減速を行い、月面に着陸する。着陸の予定日は来年1月26日。着陸は自律制御で行われ、その制御にはランダーに搭載したレーザーセンサーが利用されるそうだ。
着陸場所であるが、相乗り先が変わったことで、北緯45度の「死の湖」から、北緯33度の「雨の海」に変更となった。緯度が低い場所なるため、太陽の高度は上がり、温度環境も厳しくなることが予想される。袴田代表によれば、「熱設計もやり直し」とのことで、高熱に対する新たな対策が必要になるかもしれない。
そして最も大きいのが、コストの問題だ。追加の技術開発が必要になったほか、相乗り費用も増大した結果、プロジェクトに必要な予算が1億数千万円も増えたという。そこで、この費用を補うため、HAKUTOは新たにクラウドファンディングを発表、同日より受付を開始した。目標金額は3000万円で、期限は5月1日まで。
クラウドファンディングのプロジェクトページのスクリーンショット |
ファンディングには、ローバーのモックアップ(1000万円)からPC壁紙写真(3000円)まで、様々なリターンが用意されている。なお、今回のプロジェクトは目標金額達成の有無に関わらず、期限までに集まった金額がそのまま使われることになる。
袴田代表は、TeamIndusとの協力について「HAKUTOとTeamIndusは、それぞれ(GLXPの)中間賞を受賞している。我々としては、この5チームの中でも十分優勝できると考えている」とコメント。「ようやくここまで来ることができた。ミッションの実現まであともう一歩。最後の一歩をより多くの人と協力しながら進んでいきたい」と述べ、支援を訴えた。