米国の宇宙企業スペースXは2月19日(日本時間)、国際宇宙ステーション(ISS)に補給物資を運ぶ「ドラゴン」補給船運用10号機を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。これまで使用していた発射台が昨年9月の爆発事故で損傷したため、今回はケネディ宇宙センターにある、かつてアポロ宇宙船やスペース・シャトルを打ち上げた発射台が初めて使用された。
ロケットは日本時間2月19日23時39分59秒(米東部標準時2月19日9時39分59秒)、NASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約2分24秒後に第1段機体と第2段機体を分離。第1段機体はUターンするように飛行し、発射台の近くにある第1着陸場への着陸に成功した。
一方の第2段機体はそのまま飛行を続け、打ち上げから約10分5秒後にドラゴン補給船を分離し、計画どおりの軌道に投入。その後、ドラゴンは太陽電池パドルの展開や地上との通信の確立にも成功し、現在はISSに向けて順調に飛行を続けている。
ドラゴンには、水や食料、酸素をはじめ、ISSで行われる実験のための装置や機器など、合計約2500kgの補給物資が搭載されている。ドラゴンはこのあと日本時間22日の20時ごろに、ISSに到着する予定となっている。
よみがえった伝説の第39A発射台
スペースXはこれまで、大西洋に開けた東海岸にあるケープ・カナベラル(Cape Canaveral)空軍ステーションの第40発射台と、太平洋に開けた西海岸にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第4発射台の2カ所からロケットの打ち上げを行っていた。前者は主にISSへ向けた補給船や静止衛星を打ち上げるための発射台として、後者は主に地球観測衛星などを地球を南北に回る極軌道に打ち上げるための発射台として使い分けていた。
しかし2016年9月、ケープ・カナベラルの第40発射台で、試験中のファルコン9ロケットが爆発事故を起こしたことで、発射台が損傷し使用できなくなった。そこで急きょ、同じ東海岸にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台が使用されることになった。
第39A発射台は、かつてアポロ宇宙船を月へ送った「サターンV」ロケットや、スペース・シャトルを送り出した歴史的な場所で、2011年のスペース・シャトルの引退後はスペースXが同地を借り受け、有人宇宙船「ドラゴン2」を載せたファルコン9や、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」を打ち上げるための改修が行われていたが、2016年9月の事故で損傷した発射台が復旧するまでのつなぎとして、無人のファルコン9の打ち上げにもこの発射台が利用されることになった。
スペースXでは今後、通信衛星などの打ち上げにもこの第39A発射台を使用するとしている。また、第40発射台の復旧は今夏にも完了するとしており、復旧後は無人打ち上げは第40発射台に役割を戻し、第39A発射台は引き続き、ドラゴン2宇宙船やファルコン・ヘヴィの打ち上げに向けた準備が行われることになる。
8機目の回収成功
スペースXはロケットの低コスト化を目指し、一度打ち上げたロケットを回収し、再び打ち上げに使うための開発や試験を数年前から続けている。最近の打ち上げでは、ロケットの第1段機体を陸上、もしくは海上の船へ着地させる試験がほぼ毎回行われている。
海上の船に降ろす場合、発射台までUターンして戻る必要がないため、衛星の質量や打ち上げる軌道の都合で余裕が少ない場合でも機体を回収できるようになり、再使用の頻度を上げることができる。しかし技術的な難易度は上がり、また船を運用したり、港で陸揚げしたりといった手間が増える。
一方、陸地に戻る場合、ロケットがエンジンを噴射してUターンし、それまで飛んできたコースを引き返す必要があり、その分推進剤に多くの余裕が必要となる。しかし、発射台や整備棟に近い場所に降ろせるため、輸送の手間がかからない。
今回はロケットの能力に余裕があったため、洋上ではなく、発射台にほど近いケープ・カナベラル空軍ステーションに設けられた「第1着陸場」(Landing Zone-1)への着陸が実施され、成功を収めた。
第1着陸場への着陸は、2015年12月、2016年7月に続き、今回で3機目。また洋上での回収と合わせると、今回で8機目の回収成功となった。そのうち1機はスペースXの社屋の外に展示されており、また少なくとももう1機は、使い潰すことを覚悟の上で、地上での徹底した試験にかけられている。
そして今年1月末には、2016年4月に打ち上げ後、回収に成功した機体の燃焼試験に成功。再使用打ち上げに向けた準備が着々と整いつつある。
現時点で、最初の再使用打ち上げは今年3月ごろに予定されている。
参考