東北大学は12月19日、磁石材料から構成されるミクロなスピントロニクス素子を使った人工知能の基本動作の実証に成功したと発表した。
同成果は、東北大学電気通信研究所附属ナノ・スピン実験施設 大野英男教授、佐藤茂雄教授、深見俊輔准教授、秋間学尚助教、同ブレインウェア実験施設 堀尾喜彦教授らの研究グループによるもので、12月20日付けの応用物理学会誌「Applied Physics Express」オンライン版に掲載される。
高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能を実現するためには、脳の情報処理様式により近いかたちで、生体におけるシナプスの役割を単独で果たす固体素子を用いることが有効となる。この人工シナプス素子には、生体のシナプスと同じくアナログ的に状態を変化させることができ、その状態を長時間に渡って保持し、かつ無制限に更新できることが望まれる。
同研究グループはこれまでに、磁石材料から構成され、上述のような特徴を有するスピントロニクス素子を開発しており、今回、同スピントロニクス素子を用いて、人工知能の基本動作の原理実証に取り組んだ。
まず、アナログ的に振る舞うスピントロニクス素子36個とFPGAを組み合わせ、人工神経回路網(ニューラルネットワーク)を構築した。これまでに開発が行われてきたスピントロニクス素子では「0」、「1」の2状態しか記憶できなかったのに対して、今回用いたスピントロニクス素子は「0」から「1」までの連続的な値を記憶することができ、人工神経回路網においてはシナプスの役割を果たす。
次に、この人工神経回路網を用い、3×3ブロックにおける「I」「C」「T」の3つのパターンのいずれかから1ブロックを反転させたパターンを人工神経回路網に与え、そのもととなったパターンを想起するという、現在のコンピュータが苦手とする「連想記憶」の試験を行った。
ここではシナプスであるスピントロニクス素子の状態がある一定の法則に基づいてアナログ的に書き換えられることで学習が行われ、人工神経回路網が正解を導くが、多数回の試行の結果、同スピントロニクス素子は期待どおりの学習機能を有しており、正解パターンの想起に寄与することが確認された。
同研究グループは、今回の成果について、高速・小型・低消費電力性を兼ね備えた人工知能が実現可能となり、人工知能の適用領域が顔・音声認識、ウェアラブル端末、センサーネット、介護ロボットなど、社会のさまざまな分野へと拡大していくことが期待されると説明している。