国際電気通信基礎技術研究所(ATR)などは11月22日、最先端のニューロフィードバック技術を応用し、被験者が無自覚のうちに恐怖記憶を消去することに成功したと発表した。
同成果は、ATR脳情報通信総合研究所、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校、ケンブリッジ大学などの研究グループによるもので、11月21日付けの英国科学誌「Nature Human Behaviour」に掲載された。
恐怖記憶を和らげるには、恐怖の対象を繰り返し見せる、またはイメージさせる手法が最も効果的だが、そうした手法自体がストレスになる場合がある。今回、同研究グループは、恐怖記憶を和らげる効果は保持したまま、その過程におけるストレスを緩和する技術を検討した。
今回の実験では、まず、本来は恐くない赤と緑の図形にまつわる恐怖記憶を、微弱電流などの不快な出来事と同時に経験させることで形成。その後、赤い図形への恐怖反応を緩和する目的で、ニューロフィードバック(DecNef)訓練を3日間実施した。DecNef訓練では、赤と緑の図形を見ている際の視覚野の脳活動パターンを、人工知能技術のひとつであるスパース機械学習アルゴリズムで検出し、視覚野の活動パターンが赤を見ているときのパターンに近づくたびに、被験者に金銭報酬を与えた。
訓練最終日の翌日、赤の図形と緑の図形を見たときの恐怖反応を測定した結果、DecNef訓練を受けた図形への恐怖反応は、DecNef訓練を受けなかった図形への恐怖反応よりも低下していることがわかった。
被験者は、赤や緑の図形を表す脳活動が報酬に関連していることに無自覚であり、またDecNef訓練中、赤や緑の図形は視覚野の活動パターンとしては再現されたが、それに対応した恐怖反応は観測されず、被験者がそうとは知らないうちに、あたかも赤や緑を見ているかのような脳活動パターンが視覚野に起こっていたことになる。したがって、DecNef訓練は、被験者へのストレスが少ない恐怖記憶消去の手法と考えることができる。
同研究グループによると、同技術は健常者を対象とした基礎研究の段階にあるというが、さらに検討を重ねることにより、従来法よりも治療中のストレスが少ない、新たなPTSDの治療法に繋げられる可能性が期待できるとしている。