各種センサで施肥量のコントロールが可能な「可変施肥田植機」
これまで、田植をする際は一定量の肥料をまくことしかできなかったほか、収穫時に倒伏(稲が倒れた状態)していた場合、品質や刈取りの作業効率が下がり、農機の故障リスクも高まる。一般的に圃場の深さや肥よく度にはそれぞれムラがあり、条件は一様ではないため一定量の肥料をまくと肥料過多となり、倒伏の原因になっていたという。
今年3月に発売した「可変施肥田植機」は田植と同時に、超音波センサで土壌の深さ、車輪のリム内に埋め込まれた電極センサで肥よく度をそれぞれ測定し、肥料をまく量の調節などを行っている。田植後はGPSにより、作土深や肥よく度、減肥率の圃場マップが作成され、タブレットで圃場の状態を把握することができる。
可変施肥田植機の技術を裏付けるものとして、昨年に同社は農林水産省の「ロボット技術導入実証事業」に参画し、全国16道府県で慣行区(従来の田植機)と可変区(可変施肥田植機)に分けて実証を行った。
実証前は慣行区、可変区ともに作土深、肥よく度に一定のムラがあったが、結果として可変区は生育を均一にすることができたほか、面積25アールの田植時間は慣行区で95分、可変区で49分と時間の短縮が図れた。これにより、倒伏の軽減による品質安定、作業ロスの低減、肥料の削減といった効果が見込めるほか、その年の結果にあわせて肥料の調節など、次年度の設計も可能だという。
さらに、収穫には圃場ごとに稲の水分と収穫量の判別が可能なコンバインを使用することで圃場に適した施肥設計ができる。これにより、品質と収穫量を向上させるとともに、省力化を図ることでコストの低減につながる。
また、コメの収穫後に用いる乾燥機は従来、乾燥状態など人による監視が必要だったが、アグリサポートを搭載した乾燥機はスマートフォンやタブレットで乾燥状態の確認が可能なほか、メールで乾燥状態を定期的に送信するため離れた場所でも稼働状況や乾燥終了予定時刻が把握できる。
無人作業を可能とするロボットトラクタ
現在、同社が研究開発中の技術として注目を集めているのはGPSとRTK(Realtime Kinematic:利用者が現場で取得した衛星データと周辺の電子基準点の観測データから作成された補正情報を組み合わせ、リアルタイムでcm級の測量を効率的に行う方式。出典 国土地理院)を採用した無人作業を可能とするロボットトラクタだ。完全無人運転走行型と有人監視型(複数台のうち1台に作業者が乗り込み、残りのトラクタをリモコン操作し、監視)があり、両タイプともに開発を進めている。
勝野氏は「ロボットトラクタは製品化に向けて安全性の担保が課題だが、政府で安全性に関するガイドラインの策定を現在進めている。また、微妙な稲の色を判別し追肥量を自動でコントロールするスマート乗用管理機や、スマート籾摺り機・計量選別機なども開発中だ。担い手不足などの課題や大規模化の進展により、今後さらにコストの低減や省力化は必須となる。だからこそ、農業のICT化を進めていく必要があり、生産者の収益拡大につなげていけると考えている」と期待を寄せた。
海外への展開も視野に国内では夢総研のブランチを構築
一方、省力・高収益型経営を実現するため、ソフト面の取り組みでもある栽培技術の開発も進めている。コメの栽培については株間を広げて栽植密度を下げる栽培法で、慣行栽培の半分の苗箱数で同じ収穫量が確保できる「疎植栽培」を推奨している。
さらに、最近では同技術を進化させて苗箱数が慣行栽培の約3分の1に減らすことが可能な「密播疎植栽培」を研究・実証しており、省力・低コスト化の実現が図れるという。加えて、野菜栽培では肥料施肥量を削減する技術の「うね内部分施用技術」を採用した、うね内部施用機「エコうねまぜ君」は肥料が必要な苗の下部のみにまくことができ、従来比30~50%の肥料の削減を可能としている。
また、先端営農の普及・支援ではセミナー開催や現地サポート、人材育成に取り組み、新規参入や耕作放棄地再生の支援を行っており、2016年度は新たに福岡県や三重県、茨城県などで現地サポートを開始した。担い手の生産者を支援する井関農機グループ社員の育成を行う「アグリヒーロー応援プロジェクト」は1年を通して稲コースや大豆コース、野菜コース、ITコースなど複数の研修を行っている。
このように夢総研では、農機のICT化と省力・高収益型経営、人材育成の3分野に注力しており、これからの農業に対して同社が抱える危機感と期待感が窺える。今後について勝野氏は「夢総研は井関農機グループのベース基地・拠点であり、農業のICT化や栽培技術の研究に取り組むとともに、営農などに関する基礎的なことを学んだ上で地域に合わせた形で還元し、生産者をサポートする取り組みも行う。そして、全国に夢総研のブランチを構築していくことで、われわれの目標でもある『農業の新しいステージ』に向かうことができ、将来的にはこのような取り組みを海外に展開することも検討している」と展望を語った。