東北大学は11月16日、天然ゴムの生合成に必要なタンパク質を発見し、それらを再構成する手法を開発したことにより、天然ゴムに匹敵する分子量のポリイソプレンを試験管内で合成することに成功したと発表した。

同成果は、東北大学大学院工学研究科 高橋征司准教授、山下哲助教(研究当時、現在は金沢大学理工研究域物質化学系准教授)、同バイオ工学専攻応用生命化学講座 中山亨教授、住友ゴム工業、埼玉大学らの研究グループによるもので、10月28日付けの国際科学誌「eLife」に掲載された。

現在、産業的に利用される天然ゴムの大半は、熱帯から亜熱帯地域のプランテーションで栽培されるパラゴムノキより採取されるラテックスより生産されているが、世界的な需要の上昇に対応するため、天然ゴム高生産品種の分子育種や代替生物による生産などの方法が提案されてきた。そのためには、まず天然ゴムの生合成メカニズムの解明が不可欠であるが、分子量106以上のポリマーがどのように酵素で生合成されるかは未解明となっていた。

天然ゴムの構造は、cis-1,4-ポリイソプレンを主骨格として持つことが知られており、全生物が普遍的に持っている重合酵素「シス型プレニル鎖延長酵素」の一種が天然ゴムの生合成を触媒すると予想されていた。同研究グループはこれまでに、パラゴムノキよりシス型プレニル鎖延長酵素HRT1を同定しているが、それらの酵素は単独で天然ゴムを生合成することはできなかった。

今回、同研究グループは、天然ゴム生合成に関与するタンパク質の候補を探索するため、ゴム粒子に結合しているタンパク質をプロテオミクスで網羅的に解析し、137種のタンパク質を同定した。

この結果、そのなかにはHRT1が含まれており、同酵素が天然ゴム合成酵素の本体であることが示唆された。また、HRT1と結合するタンパク質も発見。この結合タンパク質は、REFと呼ばれるゴム粒子上に最も多く存在する機能未知タンパク質とも結合したため、HRT1-REF bridging protein(HRBP)と名付けられた。

さらに同研究グループは、ゴム粒子上でHRT1-HRBP-REFという結合関係にある3つのタンパク質が天然ゴム活性を示すかどうかを解明するため、無細胞タンパク質合成系を利用してこれらのタンパク質を人工脂質二重膜であるリポソームに組みこんだ。しかし、活性が検出されなかったため、界面活性剤処理でタンパク質を可能な限り除去したゴム粒子上に、無細胞タンパク質合成系を利用して外来タンパク質を導入する手法を新たに開発。

同手法で導入されたHRT1は明確な活性を示し、試験管内で天然ゴムに相当する高分子量のポリイソプレンを合成することに成功した。さらに、HRBPとREFをHRT1とともにゴム粒子上に導入したところ、HRT1の活性が顕著に安定化された。

これらの結果から、HRT1が天然ゴム生合成活性を発現するためには、ゴム粒子という特殊な細胞内小器官の膜上に正しく組み込まれることが重要であることが明らかになったといえる。また、ゴム粒子の膜上に多く存在するREFの一部と結合することで、HRT1-HRBPがゴム粒子の膜上に安定化され、それによりHRT1の重合反応で伸長する疎水性ポリイソプレン鎖が効果的にゴム粒子内に収容されていくという生合成機構が想定される。同研究グループは、複数のタンパク質で構成される天然ゴム生合成マシナリの存在を提唱し、HRT1-HRBP-REF複合体がその中核となって機能しているモデルを提案している。

同研究グループは、今回の成果について、天然ゴム生合成に重要な3つのタンパク質を指標とした天然ゴム高生産型植物の分子育種が可能となるとともに、遺伝子組換え技術を利用することで、代替植物における天然ゴム生産の可能性も開けたとしている。

パラゴムノキの天然ゴム生合成マシナリ