理化学研究所(理研)は9月13日、含窒素有機化合物のひとつであるニトリルを窒素分子から直接合成することに成功したと発表した。

同成果は、理研 環境資源科学研究センター先進機能触媒研究グループ 侯召民グループディレクター、島隆則専任研究員、ムラリ・モハン・グル特別研究員らの研究グループによるもので、9月9日付けのドイツ科学誌「Angewandte Chemie International Edition」オンライン版に掲載された。

窒素分子(N2)は、二つの窒素原子が三重結合で結ばれているため非常に安定である。しかしこの安定な性質のために、窒素分子を有用な含窒素有機化合物に直接変換することは非常に困難である。したがって従来は、ハーバー・ボッシュ法により作られたアンモニア(NH3)から含窒素有機化合物が合成されていた。

一方、ニトリル(R-C≡N)は、化学工業における重要な中間原料であり、医農薬中間体、溶剤、アクリル繊維の前駆物質、ナイロンの原料など、その用途は多岐にわたる。ニトリルには炭素-窒素三重結合が存在するため、原料としてアンモニアを用いた場合、アンモニアに結合している水素原子を全て取り除く必要がある。シアン化物(-C≡N)を用いてニトリルを合成する手法もあるが、シアン化物を合成する際にもアンモニアは必要となる。

同研究チームはこれまでに、独自に開発した3つのチタン(Ti)を含むチタン化合物を用いて、窒素分子の常温・常圧での切断・水素化、およびベンゼンの炭素-炭素結合の切断と骨格変換反応に関する研究を進めてきたが、今回、新たに開発した4つのチタンを含むチタン化合物と窒素分子の反応を検討した結果、特殊な試薬を用いずに窒素-窒素結合を切断することに成功。さらに、切断した窒素種と、有機合成で多用される酸塩化物との反応により、ニトリルが選択的に生成されることを見出した。このニトリル合成法にはその他の添加剤が一切不要で、一段階でニトリルが得られるという。

同反応で用いる酸塩化物の適用範囲は広く、従来のアンモニアを用いた方法では難しかったアルデヒド、ハロゲン置換基などの置換基を有するニトリルも簡便に合成できるようになる。また、生化学などで用いられる安定同位体標識した15N-ニトリルも、15N-窒素分子から容易に合成可能。反応で生じたチタン塩化物は、再び原料としてリサイクルできることもわかっている。

同研究グループは今回の成果について、アンモニアを用いずに窒素分子から直接、含窒素有機化合物を合成する省資源・省エネ型プロセスの開発につながることが期待できると説明している。

4つのチタンを含むチタン化合物による窒素分子の切断とニトリルへの変換反応。1気圧の窒素分子に、トリアルキルチタン([Ti]R3)と4気圧の水素分子を加えて60℃に加熱すると、4つのチタンを含むチタン化合物が得られる。この化合物に窒素分子を加えながら180℃に加熱すると、加えた窒素分子の切断反応が起こる。さらに、酸塩化物を加えて60℃で反応させることで、ニトリルが60~85%の収率で得られた(画像提供:理化学研究所)