国際電気通信基礎技術研究所(ATR)は9月9日、大脳皮質の高次領域に特定の時空間活動パターンを引き起こすことで、被験者の顔の好みを好き/嫌い両方向に変化させられることを発見したと発表した。
同成果は、ATR 脳情報通信総合研究所・脳情報研究所・行動変容研究室 柴田和久研究員、佐々木由香研究員、渡邊武郎室長、川人光男所長らの研究グループによるもので、9月8日付の米国科学誌「PLoS Biology」に掲載された。
従来のヒト脳研究は主に機能局在論にもとづいており、異なる脳領域がそれぞれ別の認知機能に関わると考えられてきたが、近年のモデル動物を用いた研究においては、単一の脳領域がさまざまな認知機能に関わることが明らかになっている。
同研究グループはこれまでに、人工知能技術とfMRIを駆使した「ニューロフィードバック法(DecNef)」を開発している。同手法は、脳領域に特定の活動パターンを誘導した結果、認知がどのように変化するかを調べることができるもので、単一の脳領域に異なる活動パターンを誘導した結果、それぞれ異なる認知機能に変化が起これば、その領域が複数の異なる認知機能に関わることを実証できる。
今回、同研究グループはDecNefを用いて、高次脳領域である帯状皮質に着目し、顔の好みとの関係を調べた。DecNef訓練において被験者は、「画面に顔写真が提示されたら、どのような方法でもよいので自分の脳活動を変化させてください」と教えられ、その後、そのときの脳活動パターンがどれくらいよかったかを示すフィードバック(緑の丸)が提示される。被験者は「この緑の丸をできるだけ大きくすること」が求められる。
被験者がこの課題を行っている背後では、帯状皮質の活動をもとにリアルタイムで緑の丸の大きさの計算が行われており、「好き」群では、好きに近いほど丸が大きくなり、「嫌い」群では、逆に嫌いに近いほど丸が大きくなる。これにより、被験者は自分の帯状皮質の活動パターンを特定の方向に誘導していることになるが、帯状皮質の活動パターンが因果的に顔の好みに影響を与えるとしたら、DecNef訓練によって、訓練中に提示していた顔に対する好みが変化することが期待される。
この結果、DecNef訓練中に提示された顔写真に対して、好き群では有意な上昇が、嫌い群では有意な低下が見られた一方で、DecNef訓練中に提示されなかった顔に対しては、このような変化は見られなかったという。これにより、DecNefによって顔の好みを好き・嫌いいずれの方向にも変化させられること、またその変化はDecNef訓練中に誘導した活動パターンと顔写真の連合によって起こることが明らかになったといえる。
同研究グループは今回の成果をふまえて、これまで治療が難しかった精神疾患など、脳の時空間ダイナミクス異常に起因する疾患の治療法の開発を進めているという。