東京工業大学(東工大)は、2030年までに「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」となることを目指してさまざまな大学改革を進めており、今年度からは「教育」「研究」を中心とした改革がスタートしている。
この研究改革の一環として今年4月、異分野研究交流のハブとなる「科学技術創成研究院」、および同研究院の研究所として「未来産業技術研究所」が設立された。本稿では、8月31日に同大学すずかけ台キャンパスにて行われた、未来産業技術研究所の発足記念講演会についてレポートする。
学部と大学院を統一した「学院」
講演会冒頭では、東京工業大学 三島良直学長が東工大改革の概要について説明した。
東工大は平成26年度より、社会連携、国際化、ガバナンスという観点から大学改革を進めてきたが、今年度よりさらに教育、研究についても改革を始めている。
教育改革の目玉となるのは、日本の大学として初めて「学部」と「大学院」を統一した「学院」を設置したことだろう。学士課程に入学した約9割の学生が大学院修士課程に進学する同大学の現状を踏まえ、3学部23学科および6研究科45専攻あった組織を、6学院19系へと再構成した。
また、それにあわせてカリキュラムも刷新。講義科目の年次進行を廃止し、何をどれだけ学んだかで評価できる「ナンバリング」制を導入した。科目の学修順序に従うことで、学生の自由な科目選択が可能となるほか、ナンバリング制の利点について三島学長は「博士後期課程まで必修の教養科目があり、リーダーシップに必要な幅広い視野を身に付けることができる。また、ナンバリング制のいちばんのメリットは、大学院研究に早期着手できるという点。原理的には、最短4年で修士課程、6年で博士課程を修了することが可能になる。余裕ができた時間で、海外へ留学に行っても良いだろう」と説明している。
このほか、世界トップクラスの大学とのカリキュラムや授業内容と整合性をとり、単位互換を容易にすることで学生へ海外留学を促したり、海外からトップクラスの教員を招聘したりなどといった取り組みも進めているという。
研究力強化を目指した「科学技術創成研究院」
一方、研究改革の取り組みのひとつとして、約180名の研究者を擁する「科学技術創成研究院」が、新たに設置された。
科学技術創成研究院は、4つの附置研究所、時限付きの研究センターおよび研究ユニットから構成されており、これらの研究組織が同研究院のもとで一体となることで、国内外の異分野研究交流のハブとして機能することを目指している。科学技術創成研究院 益一哉研究院長は、「研究力強化を目指すことがなによりの使命」だと語る。
科学技術創成研究院では、トップダウン型の研究体制をとっており、研究所および研究センターのトップはすべて同研究院の研究院長が務める。また、専任教員の所属は同研究院となるため、同研究院内の他の研究所やユニットへの容易な異動・流動が可能だ。外国人教員も含めた異なる専門の研究者がチームを組むことで、異分野融合型の研究を促したいという狙いがある。また教員は、研究院と学院とのあいだで異動することもできるという。
「この体制を導入したことで、たとえば産学連携を目的とした研究をやりたければ研究院の未来産業技術研究所へ、逆にもっと違う視点で研究をしたいと思ったら学院へ移るといったようなこともやりやすくなった」(益研究院長)
産業にもっとも近い「未来産業技術研究所」
科学技術創成研究院のなかでも、面発光レーザフォトニクスなどが専門の小山二三夫教授が所長を務める未来産業技術研究所は、機械工学、電気電子工学、金属・材料工学、情報工学、環境工学、防災工学、医歯工学などの異分野融合により、新たな産業技術を創成することがそのミッションだ。
同研究所は、90名程度の研究者を擁する11の研究グループ(研究コア)から構成されており、各研究コアの異なる分野の研究者が密接な協力態勢を組むことにより、異分野融合研究から社会実装までを推進していく。多様な工学分野を包含した、産業界から一番コンタクトしやすい研究所であるといえる。
なかでも生体医歯工学研究コアは、平成28年度からスタートした文部科学省のネットーワーク型共同研究拠点「生体医歯工学共同研究拠点」の中核を担う。生体医歯工学融合領域の学理構築・人材育成と革新的医療技術の創出を目的に、同研究所のほか、東京医科歯科大学生体材料工学研究所、広島大学ナノデバイス・バイオ融合科学研究所、静岡大学電子工学研究所が異分野連携ネットワークを形成し、各大学研究所の強みや特色を活用すると共に、国内外の研究者コミュニティと共同研究を展開していく。
また、従来は研究室内で閉じて使うことが多かった研究設備だが、同研究所では最先端設備の効率的な利用に向け、すずかけ台キャンパス6カ所に点在するクリーンルームの統合共用化を進めている。設備共用化を拡充していくことでも、異分野融合研究を加速させていきたい考えだ。