ではこの省電力性を生かしてどんなアプリケーションが構築できるか、という実例がこちら(Photo07)。

Photo07:MCUはデータの取得以外に、通信の上位プロトコルスタックの処理も行う(このあたりはADF7030-1内蔵のCortex-M0はやってくれない)形になる

これは同社の加速度センサ(ADXL362)と、やはり同社のCortex-MベースMCUを組み合わせた振動感知センサである。振動をADXL362が感知したらMCUを起動し、MCUが振動データを取得してからそれをADF7030-1経由で送り出すという構成であるが、待機中の消費電力は合計で345nAに過ぎない。

ではその消費電力だとどの程度のバッテリー寿命が期待できるか、というのがPhoto08である。たとえば10秒ごとの通信だと、通信に要する電力が半端無いので、電池寿命は日とか週のオーダーとなるが、2分に1回程度になると数年、30分に1回だと20年、1日1回なら30年近いバッテリー寿命が期待できることになる。要するに通信頻度をどう抑えるかであって、なるべく手前(Photo07で言うところのULP MCU)でデータを集めて整理し、必要なら集計を行うなどしてデータ量と通信頻度を減らすのが好ましい、という話であった。

Photo08:この図はある種概念図であって、実際は利用するバッテリーの容量などによって差があるが、マクロで見れば通信頻度が減るほどActive Powerの比率が下がり、バッテリー寿命が延びる。とはいえ、長期間になるとバッテリーの自然放電の分もあるので、30分から1日まで間隔を広げても、せいぜい10年延びる程度でしかない

さて、ADF7030-1そのものの話はこれで終わりなのだが、これに関連してもう1つ興味深い話を聞くことが出来た。現状ADF7030-1は6mm×6mmの40pin LFCSPパッケージ単体で量産出荷されており、2016年7月中に開発キットとして「ADF70301-xxxEZKIT」(周波数に応じて169/433/868の3種類がある)が599ドルで提供される(Photo09)。

Photo09:キットはADF7030-1ドーターボードとADuCM3029 EZ-KITボード、EZ-KITボード用のLCDシールド、アンテナが各2で、ほかにJ-Link Lite Emulatorと5V電源アダプタ、USBケーブル×3から構成される。ソフトウェア開発環境はまた別

ただもう少し手軽に、ということで現在新しい開発プラットフォームを製作中である(Photo10)。ボード上には同社の加速度センサやプロセッサなどが搭載されており、左端にワイヤレスモジュールを搭載出来るようになっている。今はADF7023ベースのものが搭載されているが、ADF7030-1ベースのものもすでにあるという。またこのモジュール上にはチップアンテナやADF7030-1以外に、プロトコル処理を行えるCortex-M3ベースのMCUも搭載されており、ここでZigBeeや6LowPanなどが処理できるとする。一方ボード上にはMikroElektronikaのMikroBUSベースとなるClockボードのソケットが4つ搭載されており、これでさまざまな機能拡張を行うこともできる。また8pinの汎用センサ入力I/Fも搭載されているといった具合だ。価格は数百ドル台を目指しているとか。敢えてArduinoなどに互換としなかった理由については、最終製品にそのまま組み込むことを考えるとArduinoは大きすぎるそうで、ワイヤレスモジュールもやはりそのモジュールのまま最終製品に組み込む事を前提としているそうだ。これまでADIはIoT向けのコンポーネントを、ある意味バラバラに提供してきた訳だが、この新しい開発プラットフォームを利用することで、開発したものが即最終製品化出来る、TAT短縮とソリューション提供の両方を狙ったものとなっている(当然このボードそのものは最終製品には明らかに大きすぎるが、こちらも最終製品にそのまま組み込める、もっと小型のものも用意しているらしい)。

Photo10:ちなみに2016年9月をめどに発表したいとか。今はボード上の加速度センサの数値を読み取って、これをOLEDに表示している

ただこうした開発プラットフォームのためには当然ソフトウェア開発環境の充実は不可欠なのだが、こちらは現在も色々開発中ということで、発表時にはもう少し細かく明らかにされると思われる。特にセンサネットワークの場合はクラウドとの連携は必須になりつつある現状で、どんなソリューションが提供されるのか、楽しみにしたいと思う。